ウォール街で証券会社や運用会社を渡り歩き引退した元金融マンとフィナンシャルアドバイザー(FA)が出会い、親友となった。数年経過して、元金融マンには脳腫瘍が見つかり余命半年と宣告された。そこで、友人であるFAは元金融マンに個人投資家向けの投資ガイドを共著で書くことを持ちかけ、本ができた。元金融マンは、金融業界が個人顧客を正当に扱っていないことに長年憤っていた。

 こうして誕生した本が『投資とお金について最後に伝えたかったこと』(ダニエル・C・ゴールディ、ゴードン・S・マレー著、漆嶋稔訳、日本経済新聞出版社)だ。惜しいことに、元金融マンだったマレー氏は今年1月に亡くなった。

 訳者あとがきまで含めて142ページのコンパクトな本なので、ぜひ手に取ってみてほしいが、全体のトーンは、チャールズ・エリスの『敗者のゲーム』に似ている。すなわち、基本となるアセットアロケーション(資産配分)をしっかりつくって、タイミングなどを狙わずにこれを維持し、基本的に手数料が安いインデックスファンドで運用することを勧めている。

 たとえば保守的でも積極的でもなく「穏当」としているポートフォリオは、米国株42%、非米国株18%、債券40%と配分されており、それぞれのアセットクラスが4~6個のインデックスで構成されている。ちなみに、債券の半分はグローバル債だが、すべて為替リスクヘッジずみを想定している。

 これらは、米国人の投資家を想定しているので、日本人がそのまままねることはできないが、著者たちの考え方を日本人投資家用にアレンジすることは難しくない。