ビジネスから家庭生活まで、
あらゆるシーンで使える「武器」としてのゲーム理論

 このコースの最大の目玉は、修了課題として取り組むプロジェクトである。受講生は、重大な戦略的試練に直面した人物(実在の人物でも、架空の人物でもよい)を特定し、その相手に与えるべき有益なアドバイスを練る。説得力があり、専門用語に依存しないアドバイスでなくてはならない。この条件のもと、次に挙げるような多彩な研究が行われた。

・ビジネス戦略──たとえば、「グーグル・ウォレットの未来について」や「新車・中古車の情報サイト『トゥルーカー・ドットコム』に対する自動車業界の反応について」
・公共政策──たとえば、「ハリケーン・カトリーナで被災し避難した住民の帰宅支援における、最善の資源配分方法」
・外交政策──たとえば、「ソマリア沖の海賊による蛮行を阻止する方法」
・スポーツ──たとえば、「NBAのスラムダンク・コンテストを盛り上げる方法」
・家庭生活──たとえば、「幼児に一人寝をさせる方法」
・歴史にかかわる仮定──たとえば、「新約聖書に登場するユダヤの総督ピラトは、ナザレのイエスをめぐる問題にどう対応すべきだったか」
・エンターテインメント──たとえば、「ドラマ『となりのサインフェルド』第129話で、主人公の女友達エレインは、有名デザイナーであるニコル・ミラーのドレスをどうやって手に入れればいいのか」

 こうした受講生の研究成果を受けて、私ははっきりと確信した。ゲーム理論は、知恵と謙虚さを伴って適切に駆使するならば、パワフルかつポジティブな変容を促す力となるのだ。本書執筆の最大の狙いは、この喜ばしい気づきを広げること。そして、読者であるあなたをもゲーム理論の使い手へと転じさせることだ。参戦しているゲームで勝つだけではなく、ゲームチェンジを仕掛け、戦略をとりまく生態系(エコシステム)を変革し、あなた自身の、そして私たち全体の人生をよりよく変えていく。そうしたポジティブな効果を最大化するべく、ゲーム理論を活かす能力と武器を身につけてほしいと考えている。

 もちろん、私たちが直面する厄介な問題の多くは、ゲーム理論だけでは解決できない。個人のレベルでは、家族との問題、職場での問題がある。国家レベルでは、政治の問題、公共政策の問題がある。そしてヒトという種としても、疫病や、あるいは憎悪に満ちたヘイト思想の広がりに対して、ゲーム理論だけを武器に戦っていけるわけではない。

 しかし、こうした場面に対してはっきりと開かれた目で戦略的思考ができるならば、それは問題の原因や、寄与している要素を見定める力になる。さらにゲーム理論を適切に応用すれば、問題への対策がむしろ深刻な害をもたらす可能性を浮き彫りにし、手遅れになる前に現実的な解決策を見つけていくことができる。