「減量債券」を使って未来の自分を意のままに操る

 それほど簡単に解決しない場合もある。今度は、食べないことではなく、実際に体重を減らすことを考えてみよう。今日の自分が食事を控えても、明日の自分が暴飲暴食をして、減らした体重をすっかり取り戻してしまうかもしれない。「未来の自分」が減量の努力をするようなインセンティブを、どうやって与えればいいだろうか。

 経済学者イアン・エアーズとバリー・ネイルバフは、2006年に『フォーブス』誌に掲載された論文で、この問題を奇抜な方法で解決する新ビジネスを提案している。その名も「減量債券」。ダイエットをしたい人は1000ドルを払って、エアーズとネイルバフから減量債券を買う。すると、あらかじめ設定した目標体重を維持している限り、一般的な相場を上回る率で配当が得られる。体重が増えるのは購入者側の不履行であり、これをするとエアーズとネイルバフの儲けが増える。ダイエットをしたい人にとっては、減量と維持のインセンティブが大きいので、これが助けになるというわけだ。

 減量債券は、「現在の自分」から「未来の自分」へ、ダイエット継続のインセンティブを与える手段だ。この意味において、債券の購入は、ひとりのゲームプレイヤー(現在の自分)が望む行動を、他のプレイヤー(未来の自分)にコミットさせる手段なのである。