あの波に飲まれたら、ダメだぁ。
浅はかだったよ、まさか家まで津波が――。

 震災当日のことを数えきれないくらい考え抜いたという。それでも、3人の死についてわからない。

「一体、何が起きたのか……。たぶん、自分の意識のどこかで、もう考えたくない、思い起こしたくないという思いが働いている気がする」

 淡々と語りながらも、1つ1つの言葉は重い。吉田さんは、テーブルの上にある紙コップにコカ・コーラを入れる。それを口にして話し続けた。

「地震が発生したときは、軽トラックでお客さんがいる現場に向かっていた。急いで店に帰り、3人に“避難しろ”と言った。女房が“う~ん”と答えていたかな。長い会話ではなかった。それが、最後になった……」

 その後、消防団員である吉田さんが車で向かったのが屯所。大きな地震の後などはまずは屯所に向かい、そこで団員らと会い、町で住民の避難誘導をすることになっていた。

 テーブルにひじをつき、やや前のめりになる。

「俺が浅はかだった。まさか家までは津波は来ない。せいぜい床上浸水だろうと思った。その時点で、3人の運命は終わっていた。津波が来ることを察知していたら、あいつらを車に乗せて高台を目指し、一気に走っていたんだ……」

 吉田さんも“死の寸前”の状況を経験した。避難誘導をしているときに、海岸のほうから巨大な津波が押し寄せてきた。大きな声で「逃げろ!」と呼びかけ、急いで軽トラックに乗り、高台に向けて運転した。だが、早速渋滞になり、前に進まない。

 その道には、縦に8台の車が並んでいた。吉田さんの車は一番後ろだった。1台前の車はマーチ(日産)で、運転席には中年の女性が乗っていた。