平時にもリスクを織り込みながら
変革を模索する

サッポロホールディングス
取締役経営管理部長
征矢 真一氏

「想定外の事態を予見するためには、どのようなインテリジェンス(情報)を選び、読み解くことが重要なのか」という前川氏の質問に対し、「デジタル化された情報も不可欠だが、むしろ社員たちが現場から拾い集めてくる顧客の声やマーケットの肌感覚といったアナログな情報のほうが重要だ」と指摘したのは征矢氏である。

 征矢氏によると「ビッグデータの収集やAI(人工知能)による解析はもはや当たり前になり、競合する企業も同じようなデジタル情報を持っている。そこで差別化を図るには、もう一度アナログの世界に戻り、われわれだけが持っているデータを活用することが求められるのではないか。たとえば、サッポロは“農業の会社”だ。

 わたしが海外視察に行って気になるのは現地のスーパーで売られている生鮮品や、飛行機の離着陸時に上から眺める農地の風景などだ。そこから現地の食卓の様子が浮かび上がり、販売のヒントが得られることが多い。工場設備やデジタル化されたデータだけを見ても、そうした絵は浮かばない。複眼的に、見る立場を変えてみるなど、ものの本質が読める人財が必要」という。

日本オラクル
執行役員
クラウド・インサイト本部長
前川 敦氏

 さらに前川氏は、「想定外の出来事にも俊敏かつ柔軟に対応していける体制をつくるためには、平時においてもリスクを織り込みながら変革を模索し続ける意識が必要だ。どうすればそれを社内に根付かせることができるか」と質問した。

 柴田氏は「当社では、財務上の課題を社員全員で共有することによる危機感の醸成、大胆なM&A(企業の合併・買収)や研究開発投資などの実践による経営サイドとしての変革姿勢の明示、リスクを取って変革に挑む現場の行動が報酬に反映される制度の導入などに取り組んでいる。たとえ平時でも、会社がリスクを取りながら変革を推し進めていることを肌身で実感してもらい、その取り組みを社員1人ひとりが現場レベルで支えることで、会社全体が強くなるのだというマインドを持ってもらいたい」と述べた。

 積極的なM&Aや研究開発投資、設備投資などによって変革を推し進めるには、CFOのマインドチェンジも求められそうである。

 征矢氏は「一般にCEO(最高経営責任者)は事業投資のアクセル役、CFOはブレーキ役ととらえられがちだが、たとえリスクの大きな投資でも、不測の事態への備えや変革のために必要と判断するなら、大胆に後押しする力がCFOには求められる。地政学リスクや災害リスクなどは避けようもないが、それ以外の大半のリスクは想像を突き詰めれば想定しうるはずだ。リスクをバネにして会社を生き残らせるという発想をお勧めしたい」と述べた。

 最後に、前川氏は「予測不可能なビジネス環境で如何にスピードをもって出来事に対応していくか、それは経営陣だけではなく、会社全体が一丸となって対応する態勢を整えることが重要。また、平時に、自社の状況をきちんと把握し、リスクを取りながらどこまで改革するかを判断することが企業を強くし、成長させる。自社の経営の状態を会計だけではなく、受注や販売、製造、在庫や購買、人事まで、あらゆる業務領域を最適化することで、よりビジネス現場で起きていることをリアルタイムに確認し、戦略を立て、リスクを負える範囲で実行し、経験を積み重ねることを繰り返すことが生き残る企業の条件になるのだと思う」とまとめた。

不確実な時代の経営について、熱い議論が交わされた

(取材・文/渡辺賢一 撮影/平野晋子)