制約の中で「できることは何か」を考える

 そんなことは受け入れがたいと思うこともあるかもしれない。だが、詰まるところ人生とは、「やりたいこと」と「できること」の妥協点を見つけることなのだ。卒業式では、「やりたいことをやれ」と言われる。だが、レオナルド・ダ・ヴィンチはこう言っている。

「やりたいことができないのなら、できることをやりたいことにしろ」

「好きを仕事にしなさい」に従ったら絶対ダメな理由話題の書『超、思考法』では、ここに紹介している以外にも、驚くべきさまざまな思考ノウハウを紹介している。

 よりによって、あのダ・ヴィンチがこう言っているのだ。ご存じのとおり、ダ・ヴィンチはルネッサンスを代表する芸術家で、アートだけでなく科学にも並外れた才能を発揮した人物だ。現代人からすると、彼ならやりたいことを何でも実現できたのではないかと思える。

 しかし、実際にはそうではなかった。あのダ・ヴィンチでさえ、やりたくない仕事をしなければならなかった。とくに、金持ちに依頼されて宗教画や肖像画を描くのはあまり好きではなかった。しかし、ダ・ヴィンチはできることをやりたいことにした。そして、その仕事に真剣に打ち込み、「最後の晩餐」や「モナリザ」など、美術史に燦然と輝く傑作をつくったのだ。

 もちろん現実には、「やりたいことか、できることか」のどちらかしか選べないような状況に置かれることは少なく、その中間を選択できることが多い。私たちは、自分は何をしたいのか、何ができるのかを考え、その2つが交差するところで生きている。そこで、「自分ではコントロールできること」と「できないこと」に対して、どのような「行動」をとればやりたいことを最大限できるかを考えることになる。

 ダ・ヴィンチは、絵画の対象を選べなかった。だが、そのなかでできる行動を見つけ、偉大な芸術作品を創造した。そして、絵を描いて得たカネを科学への情熱に注ぎ、おびただしい数の発明品をつくった。ダ・ヴィンチは、生きるための方法を発見したのだ。

 それは理想的な方法ではなかったかもしれないが、置かれた状況のなかで見つけることのできる最善のことだった。