会社でも、独立でもない、中間の働き方

 僕らは経歴は多少違えど、そこには共通の意思のようなものがある。それは日本の街や空間を、もっと楽しく、生き生きとしたものに変えていきたいということだ。僕らは今の日本や東京の住環境に満足しているわけではない。それを変えていく社会的なエンジンになりたいと思っている。

 今、僕らのチームはそうした同じ志を持った人たちが集まっている。一見、青臭く見えるけれど、その一点が握れているから組織が成り立っている。そういう意味で、不動産のビジネスが軸にあるのではなく、それは手段の一つであり、僕らの軸は、いかに空間を良くするか、楽しむかということにある。僕らの目的が単に起業や上場といった手段だったら、この組織は成り立っていない。

 僕らにとっての問題は、それを既存の会社の枠組み、例えばディベロッパー会社やコンサルティング会社、広告代理店、そして建築業界の中ではストレートにはやり切れないと気がついたことだ。だとしたら、それらを横断するようなものを自分たちの手でつくるしかない。

 しかし、独立してフリーランスになると、やりたいことができる自由は手にすることはできるかもしれないが、スケールメリットが得にくくなる。それでは新しい世界はなかなかつくれない。やはり僕らにとっては、組織として働くことが必要だった。その両方の良さを失わずに手にしようとたどり着いたのが、「フリーエージェント・スタイル」だったのだ。

 それは当初から明確にイメージして始まったわけでもない。コアになる会社はつくったけれど、一気に人は雇えない。そこでビジョンを共有できるパートナーのような、個人と社員の間の存在をつくっていった。そうして自然にバランスを取りながらできたのが今のスタイルだ。

 フリーエージェントとは、アメリカの作家ダニエル・ピンクが『フリーエージェント社会の到来』(ダイヤモンド社)という本で提案した概念で、「正規雇用者として組織に所属することなく、他者による時間的、空間的、対人関係的、また職務内容的な制限を受けずに、本人の自由裁量に基づいて働くこと」と定義されている。

 簡単にいえば、組織に所属せず、個人がプロジェクト単位で契約を結びながら、チームとして自分のやりたいことを実現するための働き方だ。アメリカでは労働人口の4分の1がフリーエージェントといわれているが、日本ではまだまだ一般的ではない。むしろ、日本人には、野球のフリーエージェント(FA)契約の方が馴染み深いだろう。

 僕らのチームのフリーエージェント・スタイルは、それぞれの「フリーランス」がプロジェクト単位で短期的に集まるようなものではなく、プロ野球やサッカー選手のモードに近く、フリーランスとチームの要素を組み合わせたものだ。チームには、持続的に社員のように深く関わりながら、働き方の自由や他の仕事をつくる自由もある。

 勝利という同じ目的を持ったチームに属しながらも、収入は個人の成績に応じて決まってくる。個人の自己実現とチームの勝利を同時に求めていく。その両方があって理想的な働き方ができあがるのだ。