規模でなく影響力で成長する

 会社は成長しなくてはいけないとよく言われる。僕らも基本的にそう思っているけれど、人数や売上が大きくなることが成長だと思われている節があるのがどうしてもピンとこない。

 人間の場合、子供のころはとりあえず大きくなるとほめられるし、成長したねと言われるが、大人になってからぐんぐん大きくなってもバスケの選手でもない限りはそれほど意味がない。言うまでもなく、問題は中身の成長だからだ。それにもかかわらず、会社はとりあえず大きくなることを成長と呼び、大抵はそれを目指している。

 そうなるのは、会社が健全に持続するための一つのあり方であるのは確かだと思うけれど、一方で株主に望まれる構造であったり、経営者の金銭欲も絡んだり、もっと非常に単純なステータス欲みたいなものであったりすると思う。どれも必ずしも悪いことではないのだが、むしろ思うのは、規模の他の進化軸に対する思いが薄いからだという気がする。

 会社は成長しないと死ぬなどと言われると、「まあ場合によるんじゃないの」と思ったりもするのである。老舗のお菓子会社などで、同じ規模でもひたすらクオリティとプライドを維持し続けているところはあるのだから。

 草食的に見える僕らも、もちろん欲はある。成長したいとは思っているけれど、それは「インパクト」、すなわち社会に対する「影響力」を進化させるということこそがその軸だと考える。そして影響力を進化させていくには、無駄に大きくなろうとしすぎないことも必要だと思う。偉大なアーティストやデザイナーがそうであるように、ピュアに創造的集中力を発揮し続けられる状態を保ちながら質的な進化を積み重ねていく者は、確実に影響力を増大させていく。

 僕らが今までやってきたことは、僕らは本質的な豊かさにつながると思ってやっているけれど、今のやり方はいきなり100億のビジネスになっていくものではなく、少しずつ自然に広がっていくものだ。

 確かに物件を探してサイトを訪れてくれるお客さんは毎月約20万人いても、実際に成約するのは50件くらい。急に大きくしようとして、フツウの物件をどんどん紹介し始めたら、僕らの大好きなお客さんは離れていってしまう。そんな仕事はやりたくもないし、やる意味もない。正しい進化をしないといけない。

 では、僕らはなぜ影響力を持ちたいと思っているかといえば、世の中をもっと豊かにしたいという思いがあるからだ。テーマや目的がないと、とりあえず利益でも大きくしていくか、という気分になるのだと思う。誰しも人からリスペクトされたいし、達成感も感じたい。だけど、大きくても質的な影響力がなく、ただの大きな会社や事業はリスペクトされないだろう。

 単に金持ちであるだけで尊敬されるのは、もはや過去の話だ。大きくならなくても進化を感じるような状態をつくればいいし、進化しなくても誇りを持って続けられるような仕事や社員のマインドをつくればいいじゃないかと思う。

 影響力の成長が第一にあることを意識しておくこと。それが僕らにとっては、間違わないための、そして生き残るための戦略でもある。この先、展開していく事業の中で、大きくなることそのものが影響力を生むための最適な選択であるときは、僕らは迷いなく大きくなるつもりだ。

 次なる成長のためにやることは、今やっていることをベースにして、新しい仕事をつくっていくことだ。数年後の僕らはもしかすると、今までとはまた異なる新たなスタイルの働き方をしているかもしれない。