“食うか食われるか”の危機感をもつ

 決断の背景にあったのは、強烈な危機感でした。
 私が入社した1960年代から、ブリヂストンは超優良企業ではありましたが、あくまで売上の大半は日本国内。世界を見渡せば、フランスのミシュラン、アメリカのグッドイヤーとファイアストン、イタリアのピレリなどのグローバル・ジャイアントの存在感が圧倒的で、ブリヂストンの世界市場でのシェアは10位くらい。いわば、アジア辺境の企業にすぎなかったのです。

 そして、タイヤは国際規格商品ですから、世界中どこでも販売することが可能。国境などあってなきがごとし。世界中のメーカーが“食うか食われるか”の熾烈な戦いを繰り広げる“Cut Throat Business(喉をかき切るビジネス)”なのです。そして、“食われる”のは企業規模に劣る企業。タイヤのような大量生産大量消費の商品は、規模の利益が強く効くからです。

 つまり、たとえ日本市場においてナンバーワン・シェアを確保していたとしても、グローバル・ジャイアントが本気で日本市場に攻め込んできたら“食われてしまう”ということ。だから、一刻もはやく世界でのシェアを高めなければ生き残ることができない……。私が入社したころから一貫して、ブリヂストンはこの危機感とともにあったのです。