「強烈な危機感」こそが、本物の思考力を生み出す

 そして、家入さんは、若いころからブリヂストンのグローバル化の最前線で戦ってきました。
 私が入社2年目でタイに送り込まれたときに、現地のナンバーツーだったのが家入さん。そのときすでに、世界のタイヤ業界の動向を睨みながら、「ブリヂストンが生き残るためにはどうするべきなのか?」についてよく論じておられた。その論旨を振り返れば、あのころから「グローバル・ジャイアントにならなければダメだ」と考えておられたと推測します。

 その後、日本本社に戻られたのちも、その考えを延々と深めておられたのでしょう。後年、ブリヂストンのCEOに就任されると同時に、ブリヂストンが既存のグローバル・ジャイアントに対抗できるポジションに立つための構想の具体化に向けて猛然と動き始めたのです。

 しかし、同時に追い詰められてもいました。
 考えうる限りの戦略立案とチャレンジをしてきましたが、自力で世界シェアを高めていくには、あまりにも時間がかかりすぎる。その間に、世界市場はグローバル・ジャイアントに完全に掌握されてしまうに違いない。そうなれば、挽回するのは至難のわざ。「このままの戦略では勝てない」と判断せざるを得ない状況に追い込まれていたのです。

 そこで、浮上したのがファイアストンとの事業提携でした。
 ファイアストンは経営難に陥っていましたが、世界中に拠点を有するグローバル・ジャイアント。しかも、地域的にブリヂストンとの重複が少ないという大きなメリットがありました。だから、ファイアストンと手を組めば、一気に世界シェアを高めることができる。つまり、「時間」が買えると判断したわけです。

 しかし、ここですかさずピレリが公開買い付けを発表。これを許したら、ブリヂストンが世界トップシェアを奪取するチャンスを永遠に失うことになりかねない。ファイアストンの買収は、ブリヂストンにとって生き残るための唯一の選択肢。だからこそ、家入さんは即座にファイアストンの買収を決断したのです。