橘玲の世界投資見聞録 2017年12月21日

IT先進国・中国で進む恐怖の情報管理社会の近未来
[橘玲の世界投資見聞録]

国家が個人情報をすべて管理する国

 中国で起きているのは、民間企業への個人情報や信用情報の集積だけではない。そうした情報が国家(中国共産党)に流出する危険をはらんでいる。

 日経新聞11月28日朝刊では、「国民監視に懸念も」として、中央銀行である中国人民銀行が2018年中をめどに、すべての電子決済を人民銀系の決済システム経由で行なうよう通知したと報じている。アリペイだけでなくテンセントのウィーチャットペイも対象で、これによってスマホでの電子決済取引を国家が完全に把握することが可能になる。

 11月には、河南省の男性がアリペイの残高10万元(約17万円)を凍結された。男性が民事上の支払いを怠ったとして、地元の裁判所が資産凍結をアリペイ側に申請したのだという。同様の事例は今年後半に入って急増しており、アリペイの金融情報が当然にように国家に利用されている。

 中国のIT企業が利用者のプライバシー情報を公安当局などに提供するのは「共産党独裁」の下で事業を行なわなければならないからだが、それと同時に中国当局の規制が自らの事業利益の源泉だからだ。これは以前書いたが、アリババやテンセントが中国で爆発的に顧客を増やすことができたのは、AmazonやTwitter、LINEなど競合するグローバル企業の進出を「国策」として食い止めたからだ。中国の大手IT企業と中国共産党は「運命共同体」なのだ。

[参考記事]
●GoogleもTwitterも禁止。中国ネットサービスの「巨大なガラパゴス」化はさらに進む
 

スマホとカメラで常に個人を特定できる中国という監視社会

 日経新聞はそれ以外でも、中国のプライバシー問題の記事を繰り返し報じている。12月1日朝刊の「映画館、客に身分証要求」によれば、河南省鄭州市では10月の中国共産党大会の治安維持強化の一環として、映画館の観客が入場時に身分証の提示を求められている。上海の弁護士は、これを全国に先駆けた試行措置ではないかと疑っているという。

南寧の映画館      (Photo:cAlt Invest Com) 

 

 中国では「グレートファイアウォール(ネットの長城)」と呼ばれるネット監視システム「金盾工程」によってGoogle、Facebook、Twitterなどのサービスを使うことができない。そのため中国国民の大半は、中国版LINEである「微信(ウィーチャット)」などを利用しているが、そこでのやりとりは共産党の指示によって企業(テンセント)が自主検閲している。

 日経新聞12月12日朝刊「中国、強まるネット言論統制」によれば、当局が「敏感詞」と呼ぶ検閲対象語は2010年に約1000だったが、15年に5000を超え、最近では1万以上に増えた。AI(人工知能)を使って、「習近平」の「習」と「近平」の間にスペースを入れたり、発音が同じでちがう漢字を使っても削除されるし、敏感詞を紙に書いて撮影した写真をアップしても削除される。隠語も検閲対象で、習近平と容貌が似ている「くまのプーさん」が敏感詞になったため、政治とまったく関係のない話題まで発信できなくなったとして世界で話題になった。

 中国のネット企業は統制強化にともない、投稿された文章や写真をチェックする「審査員」を増やしており、その総数は500万人に達するともいわれる。月給は6000元(約10万円)で、1日12時間パソコン画面を凝視し、検閲漏れは処分される。審査員は大卒の20代が中心だが、1年を超えて勤務する割合は3割以下だという。

 日経新聞12月8日朝刊「中国ネット遮断 日本企業にも」では、中国国内から海外のサーバーにアクセスするVPN(仮想私設網)が頻繁に遮断され、日本企業の業務に支障がでていることが報じられている。

 VPNによって海外とのあいだに仮想の専用線を引けば、グレートファイアウォールを回避して日本の本社のイントラネットにアクセスすることができる。中国政府は今年1月にVPN規制を強化する方針を発表したが、外資系企業の活動に配慮して日常業務に使うVPNは取り締まり対象外とされるはずだった。ところが9月以降、中国当局がVPNを次々と使用不能にし、日系企業で頻発する通信トラブルの原因となっている。9月末には、Googleの検索につづき日本のYahoo!の検索も遮断されている。――ちなみに私は10月はじめに深センと広西チワン自治区の南寧を訪れたが、いずれもVPN経由で海外のサーバーに問題なく接続できた。

 中国電信(チャイナテレコム)などが提供する国際専用線を利用すればこうしたトラブルはなくなるが、問題はVPNとちがって、「その気になれば通信の傍受や抜き取りは可能」(日本の大手通信会社幹部)なことだ。「VPNの遮断は日本企業を専用線に誘導し、情報を盗み取るためではないか」との“陰謀論”が囁かれる所以だ。

 日経新聞12月13日朝刊「監視社会が生む調整」では、中国の監視カメラの現状を解説している。それによれば中国公安当局は顔写真と身分証、電話番号などをデータベース化した「天網工程」と呼ばれる監視システムを構築しており、中国で稼働する監視カメラ1億7600万台以上のうち少なくとも2000万台は天網とつながっている。広東省広州市のホテルでは、チェックインの際にパスポートの提示と同時に顔写真の撮影を求められるという。

 中国の監視カメラは2020年には6億2600万台まで増える見通しで、スマホの位置情報や決済情報とも連動して膨大な個人情報を収集する。

 日経新聞の記者は、広東省で通信機器の民間企業を経営する40代の中国人男性から、待ち合わせ前に3時間、スマートフォンの電源を切るよう指示される。GPSがオフでも電源が入っていれば、街中に張り巡らせたアンテナとカメラで個人を特定することができるかだという。

 この男性は記者に、こう助言した。「待ち合わせ場所で落ち合ったら1カ所にとどまらず、歩きながら会話する。今はこれが一番安全だ」

あらゆるところに監視カメラが…(南寧中山路小吃街)  (Photo:cAlt Invest Com) 

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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