「情熱大陸」密着取材について

佐々木 密着されるとは思ってましたけれど、ここまで密着されるとは思いませんでした。

事務所でコピーを考えている時も、ずっと一緒にいていただいて。コピーを考えている時の絵って、撮影される側からすると単調だと思うんですよね。
「絵ずっと変わってないけど、大丈夫かな?」って、こちらが心配になるぐらい、ず〜っと撮っていただきましたね。
いやぁ、大変だなこれは、と思いました。

福岡 それだけ一緒にいると、「もういいかな」と思われませんでしたか?

佐々木 と言うのは?

福岡 「今日は情熱大陸の取材が入っているから、こういうことを言おう」とか、「こういう服装をしよう」とか考えられたと思うんですが。

佐々木 それは、考えますよね。
シャツもいいシャツ着ようかなと思いました。

福岡 でも、それだけ毎日毎日長時間一緒にいると、「もう服装のことなんかどうでもいいや」という気分になってきますよね。

佐々木 なってきます。なってきます。

福岡 そこが狙い所です。
そこを撮りたいんです。

佐々木 そういうことで言うと、密着された最初の頃の映像は、全く使われていないんです。

福岡 そうでしょうね。

佐々木 途中不意に、「何でコピーライターになったんですか?」って聞かれたんです。
配属を決めるためのクリエイティブテストで、「生まれ変わったら何になりたい」という問題が出たんですね。コピーライター志望の人たちは、「もう一度自分に生まれ変わって違う生き方をしたい」とか、「今度はアリになってでかい世界をみたい」とか書いていたみたいなんですけれど。自分はコピーライターになると思ってなかったし、でもきっとテストする側も大変だろうから、クスっと笑ってもらえたらいいかなぐらいの気持ちで、「女子高生の自転車のサドルになりたい」って書いたんですよ。そうしたらコピーライターに配属になったんですけれど、この話、下ネタだから使えないですよね〜って言っていたら、そのシーンきっちり使われていました(笑)

福岡 (笑)

佐々木 それと、「情熱大陸」出演が決まった時に、これだけは伝えたいというメッセージがあって。「伝え方で人生は逆転できる」というメッセージだったんですが。
どのシーンが使われるかわからないので、すべてのシーンでこの言葉を話していたんですね。カンボジアでも話しましたし、講演会で行った北京でも話したと思います。
でも使われなかった。

福岡 (笑)

佐々木 この言葉は伝えたいんですよね、とディレクターには再三話していたので、流石にどこかで使われるだろうと思っていたんですが。番組を見ていても、全然出てこない。最後の締めで使われるのかと思っていたら、使われないまま番組は終わってしまいました。

福岡 (笑)番組が長く続くと、「情熱大陸」はこういう番組だから、こういうことを話すと収まりがいいな!みたいになりがちです。でもそんなことしてしまったら、番組はどんどんシュリンクしていく方向に行ってしまうと思うんですね。
佐々木さんの回は、「残りの1割は何なんだろう」というところに興味があって、「残りの1割」にこだわりたかったんですね。
準備した言葉って、面白くもなんともないと思うんです。

佐々木 そうなんですね。

福岡 ドキュメンタリーって、「記録」とか訳されますけれど、ライブ感って大事だと思うんですよね。

佐々木 アルバムの中のものというより、「動いているもの」という気がします。

福岡 今一番輝いているものを切り取りたいんですね。博物館に展示してあるようなものではなくて。
「情熱大陸」に登場してきた人を見れば、その時代時代がわかるというものにしたいんですね。
僕らは「手ざわり感」とよく言うんですが。

佐々木 それはどういうことですか?

福岡 準備された言葉の中には、「手ざわり感」がなくて、カンボジアで村の人と踊っているところとか、先ほどのサドルの話や、1人ぼーっとされているところなんかに、「手ざわり感」が出てくるんですよね。

佐々木 「人間らしさ」ということですか?

「情熱大陸」が大切にしていることとは?<br />【佐々木圭一×福岡元啓】(後編)<br />福岡元啓(ふくおか・もとひろ)1974年東京都出身。早稲田大学法学部卒業後1998年毎日放送入社。ラジオ局ディレクターとして『MBSヤングタウン』を制作後、報道局へ配属。神戸支局・大阪府警サブキャップ等を担当、街頭募金の詐欺集団を追った「追跡!謎の募金集団」や、日本百貨店協会が物産展の基準作りをするきっかけとなった「北海道物産展の偽業者を暴く」特集がギャラクシー賞に選出され、『TBS報道特集』など制作の後、2006年東京支社へ転勤。2010年秋より『情熱大陸』5代目プロデューサーに就任し、東日本大震災直後のラジオパーソナリティを追った「小島慶子篇(2011年4月放送)」、番組初の生放送に挑戦した「石巻日日新聞篇(2011年9月放送)」でギャラクシー月間賞。水中表現家の「二木あい篇(2012年10月放送)」でドイツ・ワールドメディアフェスティバル金賞受賞。2014年「猪子寿之編」ニューヨークフェスティバル入賞。

福岡 この人は凄いとか、この人はいい人だ、というのはものすごい押し付けになるので、そういう風にはできるだけしないようにしています。
持ち上げ過ぎていないか、という点は良く考えます。
もともと凄い人なんだから、普段のそのままを繋ぐだけで、凄さは伝わっていくと思うんですね。
凄いとは、あえて言わないということですね。

佐々木 プレゼンのシーンもいくつか取材していただいて、見事に決まった美しいシーンも撮っていただいていたと思うんですが、使われたのは、私の一押しコピーが使われなかったプレゼンの場面でした。

福岡 そういうことです。
凄い人の「俺凄いだろう」っていうシーンはあまり観たくないと思うんですね。
悩んでいるところとかの方が、観ている人も共感できると思います。

佐々木 成人した「情熱大陸」は、これからどうあって欲しいと思いますか?

福岡 前回もお伝えしましたが、葉加瀬太郎さんの音楽、窪田等さんのナレーション、人物ドキュメンタリーという変わってはいけない3要素以外は、変わるべきものだと思います。

佐々木 変わり続けることが、「情熱大陸」なんですね。