インドは2016年に一部紙幣の使用を廃止し、国民の間に混乱を生じさせた。1年後のいま、その影響はどう表れているのだろうか。筆者によれば、廃貨政策は大きな失敗であり、そこから4つの教訓を学べるという。


 約1年前、インド政府は前例のない政策を展開した。

 それが実施されたのは、国の経済が成功に向かっている時であったのは間違いない。当時のインドは購買力平価GDPで世界第3位(9兆4900億ドル)につけ、最も急成長中の経済大国となっていた。

 2016年11月8日、何の事前通告もなく、インドの2大高額紙幣である500ルピー札と1000ルピー札の使用が廃止(廃貨)され、国の現金の86%が一夜にして無効になった。追跡不能な現金取引をともなう汚職と違法な活動を根絶する、という表向きの目的は、人々の支持を得た(旧紙幣は年内に金融機関に預けるか、新紙幣に交換するよう通達された)。

 廃貨の影響が徐々に見えてくるのに合わせ、私は2つのHBR記事を著し("India's Botched War on Cash"および"Early Lessons from India's Demonetization Experiment")、本政策とその影響について検証した。今回の措置は入念な検討を経ておらず、その実行もお粗末で、全体的な影響はマイナスになると思われ、特に貧困層に対して不利益をもたらすだろう、というのが私の評価である。

 事実、インドはその後、GDP成長率の劇的な低下を経験した。2016年第1~第3四半期には連続で年率7.9~7%の成長率を保っていたが、2017年1~3月期には年率6.1%に低下。最新のGDP成長率は5.7%にまで落ちている。その原因の一端は、昨年11月からの政策転換に求めることができるだろう。

 あれから1年が経ついま、この政策から得られた教訓を省みるのは自然なことであろう。インドの経験は、経済介入を計画している全世界の政策立案者に大きな示唆を与えるものだ。