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プロローグ

降旗 学 [ノンフィクションライター]
【序】 2011年12月16日
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フランス革命期に生きた文学者ロック・ド・シャンフォールは、こんな言葉を後世に残した――、結婚と独身には、どちらにも欠点がある。だから、人はその欠点が治るほうを選ばなければならない。
 
 

 髪をとかし終えた彼女は、もう何年も使っている三面鏡に身を乗り出すと、ファンデーションののりを確認するかのように鏡の中の自分を覗き込んだ。

 ベッドには、今夜着ていくつもりの洋服が皺にならないよう丁寧に置かれている。

 青みがかった茄子紺に、花柄をあしらったワンピース――、私はちょっと驚き、まだとってあったのか、と言いかけた言葉を呑み込んだ。それ、きみの誕生日に贈ったものだよね。

 でも、いつの誕生日に贈ったのかを思い出せなくて、私は古い記憶をたどった。

 きみがそのワンピースを着たときのことは覚えているんだ。きみは、つばの広い帽子をかぶって……、私たちは信濃の高原を散歩したんだった。あのとき、きみは何歳だったんだっけ――?

 そんなことを考えながら、私は彼女のメイクが終わるのを待っていた。

 「嫌ね、さっきから何を見てるの」

 視線に気づいて、彼女は恥じらったような視線をくれた。
  見ていたいのさ。きみが化粧する姿を見るのなんて、久しぶりだもの。

 「もうちょっとかかるわよ、下に行ってたら?」
 「急がなくていいさ。どうぞごゆっくり」
 「珍しいわね。いつもなら、まだかまだかって急かしてばかりなのに」

 私は口の中で応える。男ってのはそういう生き物なんだよ。

 我ながら可笑しくなってしまう。渋滞に巻き込まれても平気なくせに、一緒に出かけようというとき、男は待たされるのをとにかく厭う。きみが化粧を施す時間に苛立ち、あと五分が五分で終わらないときは声を荒げたりもする。

 メイクが、女性には大切な日常の一部だってことをわかってないんだ、きっと。
  だから、見ていたいと思う。きみが浮き浮きしながら化粧をしているところを。

 「ねえ、着替えたいんだけど……、いいかしら」

 彼女がさりげなく寝室を出て行くように促した。メイクは終わったらしい。
  わかったよと私は応え、階下に降りてリビングのソファーに腰をおろした。

 それから、築十年になる家を見渡した。

 長女が生まれた年に購入した家だ。おそらくは、これが人生の最初で最後になる大きな買い物になる。この家で私は父親になり、その三年後に長男が生まれた。

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降旗 学[ノンフィクションライター]

ふりはた・まなぶ/1964年、新潟県生まれ。'87年、神奈川大学法学部卒。英国アストン大学留学。'96年、小学館ノンフィクション大賞・優秀賞を受賞。主な著書に『残酷な楽園』(小学館)、『敵手』(講談社)、『世界は仕事で満ちている』(日経BP社)他。


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きみは優秀なビジネスマンだ。周囲の信頼は厚く、友だちも多い。そして仲間にも頼られる。が、しかし……、恋人だけがいない。あなたはとても魅力的な女性だ。仕事も頑張って、自分磨きも怠らない。男友だちだってたくさんいるのに……、何故か恋人ができない。いつも元気で、前向きで、どんなことにも興味を持って挑戦する勇気があるのに、恋にだけは臆してしまう。そして、自信をなくしたて落ち込んだり。そんな男女がたくさんいる。イケテルカノジョを恋人にしよう。イケテルカノジョになって、素敵な恋をしよう。ノンフィクションライター降旗学が送る恋愛下手な人たちへの応援コラム。

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