確かに、「今まで何をしてきたか」と急に聞かれると、結構むずかしい問題だ。大袈裟に言えば、自己のアイデンティティを問われているわけなのだ。だから詰まってしまって面接官に、
  「何か思い出すことはありませんか」
  と言われてしまうのだ。時には、
  「たとえば、どういうことですか」
  と面接官に聞き返す「患者」まで現れる。「いったい私は誰なんでしょう」ということを、初めて会った面接官に聞いているようなものだ。
  今まで、「自分は何をしてきたのか」なんて考える機会は、なかったのだから仕方がない。いい機会だから、この際とことん考えてみることだ。

  すると、
  「今までしてきたことを、話せばいいんだ。簡単さ。記憶力には、自信がある。生まれた病院の壁紙の模様まで覚えている」というのが次に現れる。
  ③[長編小説型]
  確かに話は具体的ではあるのだが、今までしてきたことを、生まれた日の朝から始めるものだから、たかだか10分やそこらの面接では、せいぜい幼稚園の年少組へ入ったあたりで時間切れになってしまうのだ。彼らは、「時間が短すぎる」とそろって言う。
  だが、面接で与えられた時間は10分ぐらいなものと最初から常識として知るべきなのだ。筆記試験にだって制限があるのと同じだし、君の時間だけが短いわけではないのだ。10分で自分を売り込めないようでは、ビジネスはやっていけない。
  じゃあ10分でまとめればいいだろうというのが、
  ④[ダイジェスト型]
  自分の半生記を、あれもやった、こんなこともあったと、走馬灯のごとく一気にまくしたてるタイプ。
  いっぱい言えば、いろいろやってるエネルギッシュな人間だと思ってもらえるのではないかという計算もあるのだが、結局、単に羅列で終わり、 一つ一つのエピソードの具体性も、突っ込みもないので、印象が散漫になって何も残らないというのが、この手のタイプの敗因となる。

  「面接の自己紹介」で言わなければならないことは、
  「今まで自分がしてきたことのなかで、一番の自分のクライマックス」
  なのだ。そうすると、だらだらと羅列することはマチガイだとわかるだろう。
  そこまで言ってもまだ、勘違いなのが、
  ⑤[昔はよかった型]
  「小学校時代リトルリーグに入ってまして……」というタイプ。
  それが彼にとって、一番の思い出だというのはわかるけど、それ以上の出来事は、その後なかったのだろうか。大学時代はいったい何をしてたんだということになってしまう。中学校入試の面接なら、小学校時代の思い出を話してもいいかもしれないが、いい大人がこれでは、あまりにも寂しすぎないだろうか。
  彼の人生は、小学校時代が黄金時代で、その後は余生だったのかと言いたくなる。

  時間的に離れすぎているものは、やっぱりインパクトが弱い。懐かしい思い出話よりは、たった今起こった事件のほうが生々しい。エピソードは、できるだけ最近の話のほうがいい。そのほうが、その人間が成長しているのがわかるのだ。

  「バイトもゼミもサークルも特に重点を置いてやっていません。何を言えばいいでしょう」
   という人もいる。そういう人は、そのなかでも、この話だったらひと晩でもふた晩でも話が尽きないものを探すのだ。

自己紹介で言うべきことは、
「①今までしてきたことの中で、
②一番新しい③自分のクライマックス」だ