高野:だから、向き合いながら強くなるしかない、と思った。私は、三輪さんのように「深層筋」が強いわけではありませんからね。僕の筋肉は、あとから自分で鍛えたものであって、先天的ではないんです。

三輪:「心の筋トレ」の次は、「深層筋」ですか!

高野:表面的ではなくて、「肚が据わっている」という意味です。育った家庭環境などで、知らず知らずのうちに、「深層筋」が鍛えられていたんですよ、三輪さんは。備わった体質なんです。三輪さんのお父さんは、お医者さんでしたよね?

三輪:「お金をとらない」ことで有名な医者でした(笑)。病院の従業員が「先生は、どうしてお金をとらないんですか? もらっていたら、とっくにビルが建っているのに」とあきれていましたからね(笑)。でも、そんな父が微笑ましくもあり、誇らしくもあったんです。私は子どもながらに「人の命を救うのに、お金をもらっちゃいけないんだ」と思っていました。そのせいか、私はお金にまったく執着がないんです。ホテルのスタッフにも、どんどん食事をおごってしまう。しょせん「金は天下のまわりもの」ですから、人を喜ばせるために、どんどん使えばいい。おかげで、貧乏ですが(笑)。

高野:貧乏でも、いいんです(笑)。

三輪:いいんですか?

高野:「貧乏」は、たまたまお金のない状態を言うだけですから、大丈夫です。いけないのは、「貧しい」こと。「貧しい」のは、自分を信じることができない状態ですよね。心がすごくやせ細っている。「心の筋トレ」ができていれば、お金はあってもなくてもいいんですよ。

三輪:お金持ちぶったり、自分をよく見せようとしたり、「うわべの自分を取り繕う」という気持ちが、私にはまったくないんです。それよりも、「困っている人」と接しているほうが、私の気持ちは穏やかになれます。

高野:それは三輪さんが、原理原則に則った生き方をされているからではないですか?「そもそも自分は、何のために存在しているのか」「何をしていると快適か」をご自分の中でわかっているんですよ。だからこそ、困っている人を見すごせないのだし、スタッフを大切にするのでしょう。

三輪:私は、「一面性」なんです(笑)。私に「二面性」はなくて、まっすぐ、そのまんま。だからスタッフとも、業者とも、暴力的な人とも、警察とも、同じように接することができたのだと思います。組の幹部たちが「三輪がいる限り、あのホテルには迷惑をかけない。三輪はオレたちに仁義を通してくれたから、オレたちも三輪に仁義を通す」と信頼を示してくれたのは、彼らと対等に、誠心誠意、真正面でぶつかったからでしょう。とくに「スタッフを守りたい」という想いは強かったと思います。自分の立場は、どうでもいいんです。

高野:たしかに、三輪さんは「そのまんま」ですよね(笑)。

三輪:……(笑)。

高野:「神は細部に宿る」という言葉がありますけど、それと同じように、「真理は日常に宿る」んです。どんなに取り繕っても、日常を大事にしない人には、本当の力は手に入らない。つまり三輪さんの日常は、三輪さんの本質をあらわしているんです。日常を大事にする人でなければ、歌舞伎町のホテリエは務まらないでしょうね。

三輪:歌舞伎町は、高野さんから見ても難しい場所ですか?

高野:日本で最もホテルを開業しにくい場所ですね(笑)。歌舞伎町のホテルを立て直した三輪さんは、まさしく「奇跡的なこと」を成し遂げたわけです。(明日12月22日の【後篇】につづく)

 


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人とホスピタリティ研究所所長。前ザ・リッツ・カールトン・ホテル日本支社長。1953年長野県戸隠生まれ。ホテルスクール卒業後、単身アメリカに渡り、20年間、ヒルトン、プラザホテルなどでホテルマンとして活躍。90年にはリッツ・カールトンの創業メンバーとともに開業に尽力。94年以降、日本支社長として、大阪と東京の開業をサポート。日本にリッツ・カールトンブランドを根づかせる。日本全国から企業研修、講演依頼があとを絶たない。

 


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