円高の進行、国内市場の成熟が、日本企業に対しグローバル化への圧力を高めている。しかし、協和発酵キリンがグローバル化に向かう動因は、必ずしもそれらが直接的に影響したものではない。同社は企業規模ではグローバルなメガファーマはおろか、国内大手製薬企業からも見劣りする規模ながら、バイオ医薬という先端医療ニーズでの新薬開発力は世界で十指に入るグローバルなリーダー企業だ。注目される新薬候補をてこに攻勢を強める同社のグローバル戦略を松田譲社長に聞いた。

研究開発、生産、販売にいたるまで
一貫してアライアンスが基本

有望な新薬をグローバル製品に育てていくための戦略転換<br />ネットワーク型製薬企業トップランナーのグローバル戦略<br />――協和発酵キリン松田譲社長まつだ・ゆずる/協和発酵キリン株式会社 代表取締役社長。1948年生まれ。77年、東京大学大学院農学系研究科博士課程修了後、協和発酵に入社。東京研究所主任研究員などを経て、2000年6月執行役員医薬総合研究所所長。02年6月常務取締役総合企画室長。03年6月代表取締役社長。08年10月キリンファーマ株式会社との合併により現職に就任。

――協和発酵キリンは「日本発のグローバル・スペシャリティファーマ」を掲げ、グローバル展開に意欲的です。しかし、自動車や家電といった多くの日本の輸出産業が直面する円高への対応といった課題、あるいは食品、日用品メーカーが抱える新興経済への対応といった課題とは、御社の状況は様相が異なりますね。

 たしかに自動車、家電、ITなどの輸出産業は、海外にあるインフラを再構築し、収益性を上げる、効率を上げるというのが、グローバル化の対応になりますが、当社の場合は研究開発型企業として、グローバルに通用する新薬を世界の人々の健康のために出していく、そのためのグローバル展開です。

 また、他の製薬メーカーと、当社の違いもあります。従来の医薬品は合成化合物であり、対象とする疾患のターゲットは、主に生活習慣病である高血圧、糖尿病、高脂血症といった多くの患者さんがいる疾患、というのが従来型の医薬事業の代表的なパターンです。

 ところが、我々の狙うターゲットは、患者数はそれほど多くはないけれども、今までの治療法では治療できなかった疾患。そのアンメットメディカルニーズを合成医薬ではないバイオ医薬で満たしていこうというものです。ここが他の製薬メーカーと異なるところです。

 販売面においても、従来のメガファーマのように全世界に自社販売網を構築するような展開ではなく、世界に通用する新薬が出せたとしても、非常に限られた先進医療を施す拠点病院をターゲットにすればよく、そんなに大きなMR人員を持たなくてもよい。あるいは、むしろ自社で販売するよりは、ほかの製薬メーカーに導出(ライセンス供与による製品化)したほうがいいというビジネスモデルです。

 そうした意味で、研究開発、生産、販売にいたるまで一貫してアライアンスが基本のビジネスモデルです。サイズを大きくするよりは、むしろ当社の強み、特徴が十分に生かされるようなアライアンスを組んでいく。それでグローバル化を狙っていこうということです。こういうのはあまりないモデルだと思います。