AI脅威説など、さまざまな説が飛び交うが、実際のところ、AIは何が得意で、何ができないのだろうか?完全な自動運転は現段階ではまだ難しい一方、絵を描いたり作曲はできるAI。AIの分野で日本をはじめシンガポールやドイツでも活躍する若者、株式会社ABEJAの岡田陽介社長に聞く。(経済ジャーナリスト 夏目幸明)

完全自動運転が
当面実現しない理由

AIにできることと人間にしかできないことの違いレンブラントそっくりの絵を描けるようになるなど、AIの進化スピードは凄まじいが、それでも「人間にしかできないこと」はあるという。何をAIに任せ、何を人間が手がけるべきなのだろうか?

夏目 前回までの話を整理しましょう。まず、SF映画に出てくるロボットのような「汎用型AI」はまだ研究途上にあって実現の目処は立ってません。しかし「ディープラーニング」によって、人間しかできなかった、経験やカンが必要な作業もAIが代わりに行えるようになった、と。今回は、「近い将来、AIはどこまで進化するのか」という話を聞きにきました。

岡田 全産業が変わっていきます。例えば医療。今までCTスキャンやMRIの画像を元に、医師が診断してきました。長年の経験や診察眼が必要ですし、病気を見落とすリスクもありました。しかし、ディープラーニングによって何百万枚という画像から特徴を学んだAIは「ここにガンがある」と判断できるので、見落としが減るはずです。また、MRIでは人間の脳などが「輪切り」のような形で画像化されますが、コンピューターはこれを3次元画像として捉えることができます。

夏目 それ、脳動脈瘤の検査などで既に使われていると聞いています。

岡田 あとは自動運転です。自動車にレーダーやカメラを搭載し、不意に何かが飛び出してきたら減速するなど、一部は既に実現しています。

夏目 完全自動運転はまだなんですか?これが実現すれば物流業界のドライバー不足が解消しますよね。また「AIの運転なら人間より反射神経がいいから、高速道路でより高速が出せるようになる」なんて話もあります。

岡田 可能なのですが、人間が解決すべき問題が残っています。たとえば「事故を起こしたら誰の責任なのか」とか…。また「急に車道へ人が飛び出してきて停車するのは不可能、しかし周囲を走る自動車にぶつかれば避けられる。この場合、AIはドライバーと歩行者、どちらの命を優先すべきか?」とか。

夏目 しばらくはAIを「運転のサポート」に使うというのが現実的なんですね。音声認識はどうですか?

岡田 例えばコールセンターが変わっています。お客様とオペレーターが何を話しているかを解析して、質問への答えや、お客様に確認すべきことをオペレーターの目の前の画面に表示する、といったことが既に実現していますね。顧客対応時間が劇的に減ったそうです。また、長年の経験とカンが必要な聴音検査も、AIが代行できます。

夏目 音と画像の解析を続ければ、営業や恋愛で「これは脈アリ」とかわかったりしますね(笑)。

岡田 そうかもしれませんね(笑)。また、映像や音声だけでなく、蓄積されたデータから最適解を導き出すことも可能ですよ。例えばクレジットカードの使用状況をモニタリングしていて、AIが「この会員が、ここでこんな額の買い物をするって不思議だな」と判断すると、クレジットカード会社から会員に確認の連絡が入る、といったことが実現しています。

夏目 “AI刑事”の登場だ。でもさすがに作曲家とか画家にはなれませんよね?