ROEとは、純利益を株主の持ち分である自己資本で割って求める指標で、海外を中心に重視する投資家が多い。報告書では資本コストを意識した経営の重要性が説かれ、座長として議論を主導した伊藤邦雄・一橋大学大学院特任教授の名が冠されている。

 一方で、今回の「伊藤レポート2.0」。これは同じく経産省が事務局、伊藤邦雄氏が座長という形で設けられた研究会(14年の伊藤レポートと議論の参加者は異なる)が17年10月まで1年超、10回の議論を経てまとめた報告書だ。研究会の正式名は「持続的成長に向けた長期投資(ESG・無形資産投資)研究会」。このところ運用業界で世界的に関心が高まっている、ESG(環境・社会・ガバナンス)をはじめとする非財務情報の扱いや、その視点に基づく長期投資などに力点が置かれている。

 全60ページにわたるこの報告書、最終章で8項目の「提言」もまとめられているが、率直に言って何が言いたいのか、すんなりと頭に入ってこない。提言の項目名は「1.企業と投資家の共通言語としての『価値協創ガイダンス』策定」「2.企業の統合的な情報開示と投資家との対話を促進するプラットフォームの設立」「3.機関投資家の投資判断、スチュワードシップ活動におけるガイダンス活用の推進」……といった具合だ。論点ごとに「提言・推奨」と踏み込んだ指摘がなされていた当初の伊藤レポートに比べると、論点整理に終始していると言わざるを得ない。

 何より「明確な数値基準が示されなかったことが残念」だと、ニッセイアセットマネジメントの吉野貴晶・投資工学開発センター長は言う。ESGの動向に以前から注目していた吉野氏は「長期的視点で企業価値を上げていくべきだとのメッセージは評価できるが、ESGの重要性は関係者にはすでに認知されている」として、影響力を持つためには今回の「2.0」で何かしらの数値目標を示すべきだったと話す。

 実は、研究会を取り仕切った経産省の幹部によれば、今回の報告書において「数値を示すかどうか議論があった」という。着目されたのは、株価が企業の純資産に対し何倍まで買われているかを示すPBR(株価純資産倍率)。これは株価を一株当たり純資産で割って求めるもので、理論的にはPBRが1倍を割れている会社は解散価値の方が高い。つまり、解散して資産をすべて処分すれば、株主は株価以上の利益を得られることになる。