年間をとおして、最も優秀な音に関わるモノ・コトを選定し、開発者や作家を称えることで、より一層の関連技術の向上、文化発展の寄与を目的とした賞を、本年より創設した。

 名付けて「Japan Sound Of The Year 2017」。ちなみに審査員は私ただ一人。

 平たく言えば、大局を見通せず、目先のことだけにとらわれた、特になんの権威もない民間人が、取材したり買ったり見聞きしたものの中から、良かったもの、感心したものを、順に綴っただけである。実にすまない。

 で、今年は流行語大賞にもノミネートされた「AIスピーカー」、大手も製品を出してきた「トゥルーワイヤレスイヤフォン」あたりが話題だったように記憶しているが、今年の最優秀賞はこれしかない。

最優秀賞 ギター用ヘッドアンプ「VOX MV50シリーズ」

 熱いし、大きいし、電気食う。音や演奏性から世界中で支持されてはいるが、実は結構無理して使っているもの。それが真空管ギターアンプだ。その無理している部分を、現代的技術で更新した。以上が最優秀賞の受賞理由。こういうものを40年前から待っていたのだ、私は。

新型真空管「Nutube」搭載ヘッドアンプのサウンドは何が違う?
手前からMV50「AC」、「ROCK」、「CLEAN」。価格は店頭で2万1600円

 プリ段には、ノリタケ伊勢電子とコルグが共同開発した新型真空管Nutubeを使い、リアルなチューブサウンドを得ると同時に、パワー段をデジタルとして小型化。4Ω負荷で50Wという実用的パワーを得ながら、ギターバッグに入る画期的なパッケージングで登場した。

 パワー段のコンプレッション感のような、プレイヤーがグッとくる感応性も、自前のアナログ的手法で演出する緻密さ。製品の開発に当たったコルグの李剛浩氏によるアイデアが細かく詰め込まれている。

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開発で大喧嘩、Nutube搭載超小型ヘッドアンプ「MV50」のこだわりを聞く

開発で大喧嘩、新型真空管「Nutube」搭載超小型ヘッドアンプ「MV50」のこだわりを聞く
新型真空管「Nutube」搭載ヘッドアンプのサウンドはなにが違う?
最大出力50Wのヘッドアンプ「MV50」は自宅やバンドで使えるのか?
欲しい音を出すため――極小ヘッドアンプ「MV50」音色設定に見る秘密
超小型ヘッドアンプ「MV50」のCLEANは21世紀の再発明だった
より真空管らしい音になるーーNutubeの特性と開発者の制御に迫る

 それにVFDを発明した中村博士、その技術で真空管が作れると思いつきノリタケ伊勢電子に赴いたコルグの三枝監査役など、さまざまな賢者の足跡を重ね合わせるにつけ、なにやら熱いものもこみ上げてくる。が、アンプの発熱は低い。Nutubeは低発熱、低消費電力、長寿命がウリである。

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「真空管はいいことない」――それでも「Nutube」が出た理由

「真空管はいいことない」―それでも「Nutube」が出た理由
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今年音に関わるモノで最もよかったのは真空管アンプを現代に更新した「VOX MV50」

 私はシリーズ中の「AC」を買った。リハスタやライブハウスに持って行っても、エフェクターか何かだと思っていて、誰も気にも留めない。見た目のハッタリは全然効かない代わりに、自宅の小音量での練習から、ドラマー相手のライブハウスまで使える守備範囲の広さ。これは本当に素晴らしい。

 しかし、ヘッドアンプはキャビネットをつないでナンボ。次の課題はキャビネットだと思う。いい加減、もっと小さく軽くならないのか。実際、ベース用のキャビネットには、小型でも十分実用的なものが存在する。スピーカー設計のみなさん、よろしく。

楽器部門 新人賞「Kz One Standard」

 逗子にあるギター製作工房、Kz Guitar Worksの製品。ブライアン・メイのレッドスペシャル公認レプリカを製作した伊集院香崇尊氏の知見から開発された、初のオリジナルギターである。

 国内のギタービルダーの製品といえば、フェンダーやギブソンのコピー、あるいはそのシルエットを残したコンポーネントギターが大勢を占め、まっさらのオリジナルは珍しいものになってしまった。そこに新しいスタンダードとして割って入ろうという意気込みで製作されたのが、このギターである。

 テレキャスやストラト、レスポールのようなギターは、音のイメージと演奏性が密接に関係していてイメージしやすいが、すっかり型にハマって新鮮さがない。その中でKz One Standardの魅力は、まだ白紙状態であるところ。

今年音に関わるモノで最もよかったのは真空管アンプを現代に更新した「VOX MV50」
Kz One Standardは37万8000円から

 ダイレクトマウントされた3つのシングルコイルピックアップ、それぞれにオンオフスイッチがあり、プッシュプル型のポットで、フェイズインアウトの組み合わせが選べる。そのへんはレッドスペシャルゆずり(大きな声で言いたくないが、適当なブースターをかけると、ボリュームを絞ったときのクリーントーンも含め、ブライアン・メイのあの音は出てしまう)。

 が、それはこのギターのキャラクターの一部でしかない。今までありそうでなかったカッコいい音はいくらでも出る。「これで新しい音楽をやればいいじゃないか」と、フーチーズの村田さんも言っていた。だから新しい音楽を志向する、若い人にこそ使って欲しいが、いかんせんお高い。

 ならば若くはないが、ギター覚えたてのテクニックを維持している私が試してみよう、ということで、昨年末にオーダーした。

 取材で持たせてもらい、軽く重量バランスが良いのが気に入った。重たいギターがつらい世代にも向いている。ローラーサドルブリッジに、ロッキングペグ、TUSQナットというパーツ構成も、セミモダンでいい。ふんわりした効き加減のケーラーのワーミーバーは、いくらこねくり回しても、滅多にチューニングはずれない。

 共振点の高いボディーの後押しのせいか、ゴリゴリとした低音弦と、プレーン弦のパキーンとした鳴りに魅力があると思う。ホロウボディーなりにサスティンも頑張っているが、さすがにハイフレットは伸びにくいので、多分メタル系には向かないが、そういう音楽はできないので問題ない。

 フェンダーとギブソンの中間的スケールも、太めのネックシェイプもちょうどいい。速弾きに有利だというので、どんどん薄くなっていったネック、あれはなんだったのか。フェンダーの新しいAmerican Professionalシリーズも、ちょっと太めのネックシェイプに戻っていた。我が意を得たりだ(偉そう)。

 ぱっと見、達人以外弾いてはいけない雰囲気もあるが、ちゃんとチンピラっぽい人や音楽にも合う。が、最近、我が国のギター神、渡辺香津美御大も同じギターを所有されるに至ったと聞いた。神の持ち物ということで、我が家では床の間に置かれている。

今年音に関わるモノで最もよかったのは真空管アンプを現代に更新した「VOX MV50」

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モバイルオーディオ部門 アイデア賞「RHA MA650 Wireless」

 今年はトゥルーワイヤレスイヤフォンが山のように発売された。ちょっと前まではフェージングがひどくて使い物にならなかったが、無線関係の問題も、クレームにならない程度に収まったということかもしれないが、ソニー、BOSEと大手も製品を出してきた。

 と言っても、左右チャンネルの音の寸断は、程度の差こそあれ避けられない。今のところオーディオ機器としての性能も、どんぐりの背比べ。価格の高低もあまり関係がない。今年の感想で言ってしまえば大手が出てきても、特にサプライズはなかった。その分、伸びしろは十分に残されているので、Bluetoothの規格や再生機器側の仕様が揃ったところで、ドンと良くなると思う。

 そこに、ぽろっと出て来たのが、RHAのネックバンド型。トゥルーワイヤレスが当面この程度なら、ネックバンドで気の利いたのがあればなあ、と思っていたタイミングだった。

1万円台イヤフォン「MA650 Wireless」のデザインと音が素晴らしい

 まずネックバンドにエラストマーを使ったアイデアが良かった。無造作にカバンに突っ込んでおけるので、気楽に持ち出せる。バッテリーの駆動時間も長いし、音もパワフル。他メーカーのネックバンド型より優れた点だ。

 「MA650 Wireless」(1万2850円)と「MA750 Wireless」(2万1490円)の2機種あるが、私の推しは安い方のMA650 Wirelessだ。もちろん高い方が音もいい。でも、1万円代前半で買えるモバイル用イヤフォンとして考えると、MA650 Wirelessだって十分以上の性能だ。Bluetoothは気軽に使えてナンボである。

 でも嗜好性が複雑に絡むオーディオ機器なのだから、利便性だけではダメだ。そもそも利便性なら今はトゥルーワイヤレスの方が上だ。だからネックバンド型は音で勝負して、トゥルーワイヤレスに対する優位性を示してもいい時期だと思う。MA Wirelesssシリーズのいいところは、RHAのワイヤードモデルと比べて、なんら遜色ない音にある。

 MA Wirelesssシリーズの問題は、有線接続ができないこと。だからBluetooth使用禁止の航空機内では使えない。しかし、仮に有線で使えたとして、イヤフォンジャックのないスマートフォンに、アダプターを介して接続するのも面倒くさい。そこはもう航空機製造メーカーの方で何とかしていただきたい。

RHA MA650 Wirelessの詳細はこちら
1万円台イヤフォン「MA650 Wireless」のデザインと音が素晴らしい

ホームオーディオ部門 敢闘賞「Clova WAVE」

 今年のデジタルガジェットで、なにかと話題の多かったスマートスピーカー。持ち玉を抱えた各社が、やるんかやらんのか、という状況の中で、先陣を切ったのがLINEの「Clova WAVE」だった。その勇気を称えたい。

 直後に日本国内投入を決めたGoogleやAmazonのハードと比べても、音のダイナミックさ、バッテリー駆動対応など、単体のスピーカーとしては全然負けていない。そこは本当に、全然負けていない。しかし、AIや音声認識は長くやっている方が強いわけで、Alexaの圧勝。次いでGoogle アシスタント。今では誰もClovaの話をしなくなった。

 アメリカ本国では好調のようだし、通販業者の発注装置としてはアリなのだろう。しかし今のところは、天気予報とニュース、両手が使えないときのキッチンタイマーくらいにしか使い途がない。狭い空間で、様々な音声が乱れ飛ぶ日本の家庭では、AIのインターフェースが不利なこともわかった。テレビドラマの満島ひかりに「黙れ、クズ」と言われてエラーを起こし、本当に黙ってしまったGoogle Homeには、もののインターネットの哀れを感じざるを得なかった。

 そもそもスマートスピーカーは、AIにとっては世を偲ぶ仮の姿だ。Clovaもいずれ別の姿に転生して帰ってくる。私はそう信じている。

LINEのWAVEは最高のバカだが素晴らしい
直販価格は1万4000円。Clova WaveとLINE MUSICの12ヵ月聴き放題セットだとなんと1万2800円

Clova WAVEの詳細はこちら
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パフォーマンス部門 脱げばいいってモンじゃないで賞
「デッドボールP」

 あの男はまたやってくれたそうである。

 今年は初音ミクが発売されて10年。その節目に「初音ミクシンフォニー2017」の東京公演が、11月29日に東京国際フォーラムで開催された。そこにデッドボールPがビデオ出演を果たし、初音ミクとの野球拳を披露したそうである。私は残念ながら現場にいなかったが、初音ミクが負けて脱ぐわけにはいかないので、結果は自明である。

 10年経てばいろいろなものが変わる。初音ミクもすっかり業界っぽくなった。しかし10年経ってもデPはデP。私はただひたすら、彼を称えることしかできない。



著者紹介――四本 淑三(よつもと としみ)

 1963年生れ。フリーライター。武蔵野美術大学デザイン情報学科特別講師。新しい音楽は新しい技術が連れてくるという信条のもと、テクノロジーと音楽の関係をフォロー。趣味は自転車とウクレレとエスプレッソ