潜在的なニーズをかなえ
不便を楽しみに変える

(電通ブランドデザインラボラトリーとの共同研究)
拡大画像表示

 石田教授と一緒に研究を進めている古川柳蔵准教授らは、自然環境や7つのリスク、日本人の社会性などさまざまな要因を織り込みつつ、30年における50のライフスタイルを浮かび上がらせ、それらの社会受容性を調べていった(右図)。

 未来は不確かなものであり、普通の人間には想像しがたい。また、「まずテクノロジーありき」で大量消費を続けていくのはさすがにまずいとわかっていても、人はなかなか生活を変えられない。理想の未来図に向け、自分を律することも難しい。

「単純に“昔はよかった”とか、“江戸時代は完全な循環型社会だった”といっても、人びとはそれをいまさら受け入れられません。一度手にした利便性や生活価値は手放しがたいという、人間の欲の構造(不可逆性)があるからです」

 調査ではまず、バックキャスティングの手法により、30年の厳しい環境制約のなかで心豊かに暮らせるライフスタイルを具体的に描き、社会受容性を調べたところ、多くのものが高い受容性を示した。

「50のライフスタイルの16%が、70%を超える高い社会受容性を示しています。これは、フォアキャスティングでは見えないライフスタイルが、パラレルワールドのようにわれわれのすぐ横にあることを示します。さらに調査結果を分析すると、人びとには『自然』『楽しみ』『社会と一体』『自分の成長』という強い潜在的欲求があることがわかりました。その欲求をかなえるためならば、多少の不便性は受容できるということです」

避難所が教えてくれた
人間関係の重要性

 興味深いのは、東日本大震災後に石田教授らが各地の避難所を訪ねフィールドワークを行ったときのことだ。

「同じ避難所でも、そこに生きる人たちがキラキラ輝いている避難所と、どんより暗い避難所がある。その違いは、お年寄りから子どもまで全員に“役割”があるかどうかでした。簡単にいえば全員が役割を持つ漁山村の避難所は明るく、子どもの仕事といえば勉強だけというサラリーマン家庭が集まる避難所は暗いのです」。

 たとえば子どもには、「節電、節水、省エネ」のようなネガティブな発想を押し付けても、うまくいかない。しかし「がまんしなくてもいい、どうすればムダを減らせるかな」と持ちかけて、「ムダ探し」が一種のゲームになれば、あっという間にのめり込む。遊びは楽しいからだ。