労基法違反で社名公表された企業は471社、労基署臨検後違反が発覚した事業場は69%に上るというトンデモな事態が起きている。社員を労働搾取するばかりか、支払いを遅らせたりして取引先を使い捨てする事例も目に余るなど、モラルの低い企業が多すぎる。(モチベーションファクター株式会社代表取締役 山口 博)

10社に7社が労働搾取!
日本企業のモラルは依然低いまま

10社中7社が労働搾取!ブラック企業は減っていない働き方改革がこれだけ叫ばれているにもかかわらず、いまだに残業代未払いや過重労働が横行している日本企業。また、社員を食い物にする企業は、往々にして取引先も食い物にする。そうした考え方では、短期的には利益が増えるだろうが、中長期で見れば成長していくことはできない

 政府を挙げて働き方改革が行われているにもかかわらず、過重労働、残業代未払い、労務関連制度の不整備といった、労務に関する不適切事例が後を絶たない。厚生労働省が公表している労働基準関連法令に違反した企業数は、全国で471社ある(「労働基準関連法案に係る公表事案」、2017年11月30日最終更新)。

 昨年5月の公表開始時が330件なので、この半年間で減少するどころか、1.5倍に増大している。違反の公表期間が1年、改善され次第公表されなくなるので、違反の発覚が改善を上回っている状況だ。

 もっともこれは氷山の一角で、最新の「労働基準監督年報」(2015年実績)によれば、労働基準監督署の臨検により違反が発覚した事業場数は全国で9万2034件、臨検事業場数の、実に69%に上る。違反内容は、労働時間に関するもの(2万7581件)、残業代など割増賃金に関するもの(1万9400件)、労働条件の明示に関するもの(1万5545件)の順に多い。

 臨検すれば10社のうち7社で違反が発覚するという実態に鑑みるに、日本の経営者の意識が依然、「社員は使い捨てるもの」という労働搾取的発想から抜け出せていないと言わざるを得ない。

 私自身、企業経営をサポートしており、経営者の本音を聞く機会が多い。「労基署が入っても初犯の場合は、企業名は公表されませんよね?」、「労基署から指摘されたら謝罪して、それから是正すればいいですよね」、「法律違反の会社に勤めるのが嫌ならば、辞めればよい」…これらの発言には、法令順守の意識を垣間見ることすらできないし、そもそも謝罪すべき相手は労基署ではなく労働者だ。社員は労働搾取して使い捨てすればいいという経営者の意識を感じ取ってしまう。

 挙句の果てには、「労基署から指摘された後で未払い残業代を支払った方が、財務経理上のネガティブインパクトが少ないので得策だ」という発言まで飛び出した。つまり、労基署から指摘されない間は、残業代は払わない方が会社が儲かるというわけだ。社員からできる限り搾取をして、財務体質を良くしようという利益至上主義である。

 経営方針は経営者が決めればいいことだが、何をしてもいいということには、当然ならない。労働搾取は、れっきとした法律違反である。仮に法律違反を犯していなくても、労働者と共に成長して生きていくという共生の意識がみじんも感じられないことが問題だ。短期的には労働搾取は利益増大に効果をもたらすかもしれないが、中長期的には企業に利益をもたらさないことは自明だ。