昭和歌謡ブームが来ている?11月29日付の東京新聞によると、「戦後復興期から高度成長期にかけて流行した歌謡曲に、再び注目が集まっている。近く1周年を迎える浅草の『昭和歌謡レビュー』は幅広い世代の客で盛況で、懐かしの歌謡曲ばかりを流すバーも増えている」という。

 歌手・由紀さおりが米国のジャズ・ミュージシャンと共演し、1969年の歌謡曲をカバーしたアルバム『1969』が世界20ヵ国以上でCD発売・デジタル配信され、ヒットを記録しているとのニュースもあった。

 ブームに乗るのが人の性なら、逆もまた然り。筆者としては、昭和歌謡および由紀さおりに何ら含むところはないが、「ブーム」や「海外で好評」の実態をこの機に確かめたくなった。

 懐かしの歌謡曲には、常に一定の需要があり、その時代を知らない層まで巻き込んだものに限定しても、1980年代には「廃盤ブーム」「GSブーム」があった。2000年前後にはっきり「昭和歌謡ブーム」と銘打たれてからを追っても、浮き沈みこそあれ、ずっと「ブーム」は続いているようだ。

 強いて言えば、2000年半ばにブームの「底」はあったが、2008年には再び「ジャンルを超えて広がる昭和歌謡ブーム」(産経MSNニュース)などと伝えられている。

 いつ「昭和歌謡ブーム」をニュースにしても決して嘘ではない上に、一昨年あたりから昭和歌謡を流すバーについてのニュースが目立ち始めてもいる。その上での「昭和歌謡レビュー」の1周年なので、ブームはどうやら本物らしい。疑って申し訳なかった。

 由紀さおりの『1969』が、多くの国で発売されていることに疑いの余地はない。米国iTunesのジャズ・チャートとカナダiTunesのワールドミュージック・チャートでは、1位を記録したという。さらに、ギリシャのIFPI総合アルバム・チャートでは4位、シンガポールのHMVインターナショナル・チャートでは18位(以上チャート順位は全てJ-CASTニュースより)というから、ヒットしているのは事実なのだ。

 何万ダウンロードといった数字の報道が見つからないのは気になるが、「ジャズ」「ワールドミュージック」「シンガポールのHMV」と限定されたチャートであっても、日本発の音楽がランクインすること自体が珍しいのだろうから、「海外でヒット」と報道しても問題ないだろう。「海外で好評」に至ってはなおさらである。これも疑って申し訳なかった。

 ただ、今回のケースはいずれも何らかの実態があるものだったが、ほとんど実態のない「○○ブーム」を叫んでも、すんなり通りそうだ。突っ込まれても「“一部では”ブームである」「流行の“兆しがある”」とすればいい。1人でも○○している男性がいれば「○○男子が流行(の兆し)」としても構わないだろうし、いないからつくったというケースもあるはず。

 もちろん、多くの場合ブームは「起こされる」ものだと私たちは知っている。ことが特定の菓子や音楽であれば野暮を言わずに乗っかったほうが楽しい。だが、それが世論でまさに「起こされようと」(あるいは「潰されようと」)しているのなら、どうだろう。前例も多いだけに、ちょっと恐ろしい気もする。

(工藤 渉/5時から作家塾(R)