ヒトとは何か?

 ときどき、ヒトとは何か、と考えます。いずこより来たりて、いずくにか至らん、と。

 そんなものに簡単な答えはありませんが、これをまずは哲学的ではなく、人類学的にみてみましょう。スティーヴン・オッペンハイマー博士による『人類の足跡10万年全史』(草思社)には、最新の知見が詰まっています。

 近年の考古人類学の進歩はめざましく、多くのナゾが解かれ、多くの常識が覆されてきました。たとえば、

アフリカ単一起源:現生人類(ホモ・サピエンス)の祖先は多地域で独自に生まれたのではなく、17万年前アフリカで生まれた
出アフリカ:現生人類は10~7万年前にアフリカを出て、世界に広まった
3系統:アフリカに留まったもの、ヨーロッパに渡ったもの、そしてアジアに渡ったもの。紅海を越えてアジア・オセアニアに渡ったのは、もとはたった250人程度

 などです。これらの知見の多くは、DNA解析という「新しいハカり方」によってもたらされました。現代人が祖先から受け継いだDNAを調べることで、海を渡った先人たちのグループサイズすらが推定できたのです。

ヒトは特別か?

 まだまだ論争が続くテーマもあります。それが「ヒトは何が特別なのか」というテーマです。2足歩行、とか、脳が大きい、とか。道具を使う、とか、言葉を話す、とか。さまざまな説があり、それらへの反証があります。

 ヒトが言葉を操ることは、それほど特別でしょうか? イルカもシャチも、言葉を持っています。トリもただ鳴いているわけではありません。多くの語彙を持ち、文法すらも操ります。

 道具も然り。キツツキフィンチは、くちばしで棒きれ(フックツール)を器用に操って、木の穴に潜むムシを引き出しますし、カレドニアガラスはそのフックツールを自作することで知られています。