日常的なマインドフルネスで脳は変化していく

 メンタルヘルスの改善策として、精神科や心療内科では長い間、薬物治療がメインに行われてきました。薬で脳にアプローチすることで、簡単にメンタルをコントロールすることができるからです。

 しかし、近年はこうした薬物治療に代わりマインドフルネスなどの瞑想法を取り入れる医療機関が増えてきました。

 この背景には、臨床的な改善効果だけでなく、fMRIやPETスキャンなどの脳イメージング技術の発達による、科学的なエビデンスのバックアップがあります。具体的には、定期的なマインドフルネスなどの瞑想の実践により、脳の構造が変化することが確認されたのです。

 まるで、筋肉を鍛えるかのごとく、脳も鍛えられるのです!

 これが、マインドフルネスは心の腕立て伏せといわれる所以なのです。

 さらに、424人の重度のうつ病患者を対象としたイギリスの研究によると、抗うつ薬による投薬治療のグループとマインドフルネスのグループにおける、それぞれ8週間の実施後2年間にわたる追跡調査によれば、これら2つのグループ間のうつ病の再発率には差がないことが明らかとなりました。

 マインドフルネスには、薬物治療と同等の効果があることが示唆されたということです。

 別の見方をすれば、日常的なマインドフルネスのトレーニングが、脳の機能変化をもたらし、心の働きを正常化させ、行動変容を引き起こしたということです。

 抗うつ薬は向精神薬ですから、外からの刺激で脳に作用し、うつ状態になりにくい精神状態を強制的につくり出します。脳に不可逆的な力が加わるので、効果が期待できる反面、副作用の問題がついて回ります。

 一方、マインドフルネスには副作用の心配がないだけでなく、自分の力で脳を鍛錬し、脳機能を改善できるところが大きな特徴といえます。マインドフルネスが得意とするのは、思考のゴミであふれかえる脳の環境を整え、脳の快適性を高めるところです。

 このことで、頭の中がスッキリし、脳がうまく機能し出し、目の前の行動に没頭できるようになります。

 この脳がニュートラルな状態というのは、ただ日常生活を過ごす分には十分な状態です。しかし、本連載では、あらゆる場面で最適なメンタル状態をつくり出し、その場面ごとに最高のパフォーマンスを発揮することを目的とします。

 その観点からすれば、脳がニュートラルなだけではまだ50%の完成度といえます。

 脳の快適性を高め、ニュートラルな状態にすることは、メンタルのベースづくりだと認識してください。ここを出発点に、様々な状況に応じてメンタルをコントロールする必要があります。

 具体的には、脳の覚醒レベルのコントロールです。