おっ、アンプシミュレーター内蔵のBluetoothスピーカーがフェンダーに。

プリセットが最高 フェンダーのWi-Fiギターアンプが未来を感じさせる

 フェンダーの「MUSTANG GT 40」は、Wi-Fi経由でネットに接続し、音色のアップデートや、ユーザー間でのシェアができるギターアンプ。PCやスマートフォンを介さず「アン直」でデータのやり取りができるのが特徴だ。

 操作はBluetooth接続したスマートフォンと、フェンダー純正アプリ「Fender Tone app」でも可能。おまけにUSBオーディオインターフェース機能と、Bluetoothスピーカーの機能も付いてくるという多機能っぷり。価格は税込みで2万8080円。後述する内容からいえば、なかなかのバーゲンプライスだ。

 キャビネット一体型のアンプシミュレーターとしては、ヤマハのTHRシリーズや、VOXのAdio Airと同じ路線の製品。その中でのフェンダーの立ち位置は、なんと言ってもギターアンプのシミュレートが最高であることに尽きる。

ギターアンプらしからぬ軽さ

 しかし、フェンダーロゴ以外、オールドファンの心をくすぐるデザイン上のフックは皆無。ウンチクが挟まる余地なし。そこに「これは新世代のギターアンプだぞ」という気合いを感じる。

 サイズは幅38.73×奥行き21.0×高さ26.7cm。そしてギターアンプとすれば、スカッと軽い6.25kg。実際、片手で持ち運べる。エンクロージャーの素材はパーティクルボードで、これも軽さの理由だ。ただしバッテリー駆動には対応しない。

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 パワーは20W+20Wの総合40Wで、6.5インチユニットを2発マウントしたステレオ仕様。小さいユニットの再生限界をカバーすべくクローズドバック。そしてバスレフポートを背面に設けている。

 とりあえずギターをつないで鳴らしてみると、結構音はデカい。ドラマーがいないアンサンブルなら、十分にバランスは取れると思う。そして歪ませた音色を小音量で鳴らしても、ホンモノのチューブアンプのマスターを絞ったときより、はるかにバランスの良い音で鳴る。シミュレーターだから当然とは言え、こういうときはデジタルっていいなと思う。

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フェンダーのアンプモデルが最高

 ギターアンプとして使うだけなら、プリセットで十分用が足りる。ロータリーエンコーダーをくるくる回して選ぶだけ。そしてグッとくるのが、フェンダー歴代アンプの網羅度が高いこと。フェンダーの製品なのだから当たり前かもしれないが、あらゆるギターアンプのルーツのような存在であるにもかかわらず、この手のシミュレーターでフェンダーは雑に扱われがちだ。で、以下のようなものが揃っている。

'57 Champ
'57 Deluxe
'57 Twin
'57 Bandmaster
'59 Bassman
'61 Deluxe
'65 Princeton
'65 Deluxe Reverb
'65 Twin Reverb Excelsior

 もう、これだけで値段分の価値はある。個人的な趣味で言うと、Bassmanがあるのがとても良い。もともとベースアンプとして作られたが、音がいいというのでギタリストも使うようになり、初期のマーシャルはこのアンプを元にデザインされた。それが本家ならではの高い忠実度で、ちゃんとあるのが素晴らしい。

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デジタルアンプらしい操作パネル。設定はカラー液晶とロータリーエンコーダーで

 ミッシェルガンエレファントのアベフトシフリークとしては、赤いノブのThe Twinがあるともっとうれしかったが、ハイゲイン系なら、ほかで間に合うと言えば、まあ間に合う。

 プリセット名は例によって適当にごまかしているが、マーシャルやVOX、オレンジ、ハイワットと言ったイギリスのアンプモデルもあり、いずれも美味しいところを再現している。

 それぞれ真空管のバイアスや、いわゆる「サグ感」まで調整できるのもマニアックだ。アンプシミュレーターにありがちなレイテンシーは実感できない程度に低く、こうしたチューブアンプのコンプレッション感に関わる設定も、実感しやすい。デジタルの利便性だけでなく、弾いても楽しいアンプになっている。

プリセットが最高 フェンダーのWi-Fiギターアンプが未来を感じさせる
アプリで見たアンプの詳細設定。パワー管のサグやバイアス調整のほか、オリジナルにはないキャビネットの組み合わせも可能

実践的な操作性

 音色設定は、アンプモデルにエフェクトを組み合わせたものが、一つのプリセット。エフェクトを置く場所は、アンプ前と後のプリ、ポストが選べる。

プリセットが最高 フェンダーのWi-Fiギターアンプが未来を感じさせる

 エフェクトは全部で37種。ブースター、オーバードライブ、ファズのようなゲイン系、コーラス、フランジャー、フェイザーのようなモジュレーション系、ステップフィルターにリングモジュレーターのような飛び道具系、そしてディレイにリバーブ各種。

 このうち同時に使えるエフェクトは計4~5個くらい。ピッチシフターのような処理パワーを食うものを使うと、同時に使える数が減る。そこらへんは高級なアンプシミュレーターと比べたら、全然大したことはないので念のため。

 しかし、即戦力として、操作性自体は申し分ない。よく整理された画面デザインと、ロータリーエンコーダーの適切なクリック感もあって、本体の操作はテンポよくできる。

プリセットが最高 フェンダーのWi-Fiギターアンプが未来を感じさせる

 スマートフォンからのパラメーター操作も、リアルタイムで追従するのがえらい。アプリのパラメーター操作は、パラメーターの一覧モード、大胆にズバッと変えられる全画面モード、1ステップずつ増減できる微調整モードがある。

 ライブで確実に操作したいという場合は、オプションの「MGT-4フットスイッチ」や「EXP-1エクスプレッションペダル」を使えば、音色の切り替えやパラメーターの操作が足元でできる。

プリセットが最高 フェンダーのWi-Fiギターアンプが未来を感じさせる
パラメータの一覧モード
プリセットが最高 フェンダーのWi-Fiギターアンプが未来を感じさせる
一つのパラメーターにフォーカスした全画面モード
プリセットが最高 フェンダーのWi-Fiギターアンプが未来を感じさせる
微調整モード

Bluetoothスピーカー機能はオマケ

 Bluetoothスピーカーとしての機能は、あくまでスマホの音源に合わせて、ギターを弾くために付いているものだ。大きな音が破綻なく出せるという点では、そこそこイケている。でもローエンドは伸びないし、ステレオ感もない。動画を見る場合は、100ms程度の音声遅延があり、映画を観るにもストレスを感じる。

 USBオーディオインターフェースも、実は単純なデジタル出力ポートでしかない。出力オンリーで入力は受け付けず、DAWのプレイバックモニターとしては使えない。試しにiPadに接続すると「接続されたデバイスは消費電力が大きすぎます」とかで使えない(初代iPad Airの場合)。

 USBのルーティング設定までできて、iOSデバイスの接続にも対応している、VOX Adioシリーズと比べるとキツいところ。だが、そんなことはどうでもいいのだ。このモデルの軸はギターアンプとしての機能や操作感、演奏性の良さにあるのだから。

実は上位機種も軽くて安い

 シリーズには今回のGT40の他に、100W出力のGT100、200W出力のGT200がある。それぞれ特製の12インチセレッション付きで、GT40にはないFXループや、PAに出力を送るXLR端子も付いている。ステージで使ってねという仕様だ。

 ちなみにGT100は9.97kg、GT200は15.4kg。持てばウソだろうと思うほど軽い。出力比で言えば、大きなトランスの必要なフルチューブの半分以下。値段もそれぞれ税込みで4万8600円、6万9984円とバカみたいに安い。

 GT200をちょっと試す機会があったが、持ち運びの楽な本番用として、これもアリじゃないかと思った。もし練習用、本番用と複数台所有するなら、スマートフォンからワンタッチで音色がシェアできたり、クラウドに上がった音色をダウンロードできる機能も活かせたりする。

 今のところのWi-Fi接続機能は、スマートフォンやPCからダウンロードしたデータを、アンプへ転送する手間を省いただけ。それだけでも便利には違いないが、この仕組みならではのプラスアルファも欲しいところ。

プリセットが最高 フェンダーのWi-Fiギターアンプが未来を感じさせる
クラウドにアップされていた「狂ったダイアモンド」の音色。ダウンロードして、4弦8フレットと2弦6フレットを押さえ、4-2-3-1弦の順で鳴らし始めると、こっちの世界に帰ってこれなくなる

スマートギターアンプを目指して欲しい

 実は、最近あればいいのにと、大真面目に思っているのが、ギター用クラウドAIだ。考えてみれば、MUSTANG GTシリーズの仕組みは、スマートスピーカーと同じ。あの手の製品は、実際のところ大して使い道はないが、両手がふさがってリモコンが使えないときには、確実に重宝する。で、ギターを弾いているときがまさにその状態だ。

 思えば、ウェブのギターレッスンサービスはいくつもあるが、途中でタブレットやPCの操作を要求される場面がある。そのたび楽器から手を離さなければならないから、煩わしいわけだ。

 そこで「オッケー、ジェフ。イーマイナーメジャーセブンスフラットファイブってどんなんだっけ?」と聞けば、コードを教えてくれる。あるいは「やあフリップ。キーF#で伴奏して。あ、そこもっとテンポは速くして」とか言えば弾いてくれる機能があると、とてもいい。

 それを発展させて「なあ、ビリー、ジョン、ヤン。ちょっと聞いてくれ。君たちはプロだろ、もっとグッとくる感じの演奏はできないのか。グッとくる感じにだよ」と、往年のYAZAWAばりにAIミュージシャンを煽り続けると、いい感じの音楽に仕上がってくるとか。

 ボノとジ・エッジを取締役に迎えて以降、最近のフェンダーは一昔前のアップルっぽい感じになってきているので、それも夢ではないと思っている。

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著者紹介――四本 淑三(よつもと としみ)

 1963年生れ。フリーライター。武蔵野美術大学デザイン情報学科特別講師。新しい音楽は新しい技術が連れてくるという信条のもと、テクノロジーと音楽の関係をフォロー。趣味は自転車とウクレレとエスプレッソ