船上で急な腹痛と下痢、嘔吐に襲われたアインシュタインを救ったのは、日本人医師だった (※写真はイメージ)

『戦国武将を診る』などの著書をもつ日本大学医学部・早川智教授は、歴史上の偉人たちがどのような病気を抱え、それによってどのように歴史が形づくられたことについて、独自の視点で分析。医療誌「メディカル朝日」で連載していた「歴史上の人物を診る」から、アルバート・アインシュタインを診断する。

【アルバート・アインシュタイン (1879~1955年)】

 時々、飛行機の中で「お医者さんはいませんか」というアナウンスがある。

 数年前のとある学会の帰り、米国の某大都市から成田に向かう飛行機でお呼び出しを受けた。周りの座席には斯界の大物教授がおられるが誰も手を挙げられない。なんとなく気まずい沈黙の後、多分この学会の発表者ではなさそうな少壮のお医者さんが名乗り出て皆ほっとしたものである。筆者の専門であれば協力したいが、おそらく産婦人科感染症の出る幕はあまりないと思う。船旅が主流だった第2次世界大戦前には、船医がいなかったり、専門外だった場合、乗客の中のドクターが活躍する機会はもっと多かったはずである。

大物理学者の急病

 大正11年(1922)10月8日、マルセイユから日本郵船の客船「北野丸」が日本に向けて出港した。地中海からスエズ運河を経て神戸まで1カ月半の旅である。一等船室にはフランス大使石井菊次郎や尾張侯徳川義親とともに、出版社「改造社」の招きで初めて訪日するアルバート・アインシュタインの姿があった。