[東京 16日 ロイター] - 経団連は2018年春闘の経営側指針に、安倍晋三首相が求める3%賃上げ要請を盛り込む異例の対応を示した。働き方改革に伴う残業代減少によるコスト削減分を家計に還元するとともに、早期のデフレ脱却宣言を目指す安倍政権の意向を踏まえた形だ。

ただ、3%という高い賃上げは企業にとって恒久的負担となり、同調する企業の広がりは読みにくい。物価上昇や消費増税を乗り切れるだけの家計の回復につながるか、今年の春闘が正念場となる。

<経団連、残業代カット分の還元方針>

例年より高めの賃上げ率を企業に呼びかけることになったが、経団連の榊原定征会長は、残業代減少に伴う企業収益の伸びとともに、子育て世代の生活費減少を懸念する政府内の声に呼応して、昨年の早い段階から収益還元の意向を示していた。

この先の経済についても、昨年12月末の経済財政諮問会議で「消費税率の引き上げによる国民負担増、長時間労働規制に伴う雇用者報酬減などが、経済の下押し圧力の要因として懸念される」と述べ、賃上げには積極的に対応する姿勢を見せていた。

経済界としても、今後の経済情勢を踏まえると、個人消費の不安定な動きが企業活動にも悪影響を及ぼしかねないとの不安があったとみられる。

他方、政府内では、安倍政権下の5年でデフレ脱却宣言に至らず、今年の賃上げ動向がその鍵を握るとの見方が強まっている。「今年1.1%の物価上昇見通しが実現できれば、今年中のデフレ脱却も視野に入る」(政府関係者)との声がある。すでに政府内では、非公式に脱却宣言の時期をいつにするかの検討が始まっている。

<消極的な企業も>

しかし、残業代の減少により若い世代を中心に4─5兆円に上る所得減が生じるとの試算も政府内にはある。それを補てんする賃上げが、デフレ脱却宣言の前提となるという考え方が政府内で広がっていた。

具体的には、基本給引き上げに限らず、ボーナスや若年層をターゲットとした手当てなども含み、年収ベースでの3%前後の賃上げが実現できれば、経済の前向きの循環をサポートするとみている。

ただ、大企業が中心の経団連の指針に「3%」が盛り込まれたとしても、個別企業がそれに従うとは限らない。各社の収益状況もそれぞれ異なる。

12月ロイター企業調査(上場企業400社対象)では、3%の賃上げ要請について7割の企業が「非現実的」と回答。

政府の賃上げ減税に対しても「利用したい」との回答は半数にとどまった。「賃上げは恒久的に業績に影響するが、減税は一時的」(食品)といった厳しい見方も聞かれた。

ある政府関係者は「企業が現段階で消極的な回答を寄せるのは当然。実際の労使交渉前に手の内は明かさない」として、今年の春闘に期待が持てるとの楽観的見通しを崩していない。

<負担感重い社会保険料>

だが、過去4年間の状況を見れば、賃上げが実現しても個人消費に勢いが出るとは言い切れない。社会保険料が年々増加、賃上げ分が相殺されてしまうケースが中間層を中心に多いと複数のエコノミストは指摘する。

今回の経団連経労委報告では、16年度社会保険料負担額が1人当たり13年度比7.6%増となり、現金給与総額の同2.5%増を大きく上回っていると指摘。現在の高齢者が受けている給付の適正化を求めている。

諮問会議でも、民間議員の新浪剛史・サントリーホールディングス社長は「賃金が上がった割には可処分所得が上がっておらず、(その背景にある)社会保険料の抑制は大変重要な課題だ」と述べている。

今年の春闘の集中回答日は3月14日。果たして経団連の呼びかけに大企業がどの程度応えてくるのか、デフレ脱却に向けて例年以上に注目が集まる。

同時に、政府自らが社会保障制度改革に本腰を入れなければ、デフレ脱却実現の足かせになりかねない。

(中川泉 編集:田巻一彦)