魅力的なキャリアには「複雑な経歴」が伴う

 同様の考えは、アーカイブのその他のインタビューにも紹介されている。

 宇宙生物学者のアンドリュー・スティールは、「自分が何をするつもりかなど考えても見なかったよ。自分のやりたいことを今すぐ決めるべきだなどというシステムには反対だ」と語っている。

 チャンネル・アイランド・サーフボードの創業者であるアル・メリックも、長い時間をかければ、やりたいことに出会えると話している。

「人生のスタートを急ぎすぎるのは悲しいことだ。私は大帝国を築こうとして働き始めたわけではない。『何をするにもベストを尽くそう』が私の目標だ」

 別の動画では、ワシントン州スタンウッドを拠点に活躍するガラス職人、ウィリアム・モリスが、豊かな北西部の森の中にある、納屋を改修してつくった自分の作業場に学生グループを連れていく。女子学生が「私にはいろんな興味が山ほどあって、どれか1つになんて絞れないのです」と漏らすと、モリスは、こう言う。

「どうなるかなんてわかるはずがないのに、今決めてしまいたいとも思わないでしょう?」

 これらのインタビューでは、次のような重要ポイントが強調されている。

 魅力的なキャリアには、やりたいことを追い求めればよいという単純な考え方を否定する「複雑な経歴」が伴うことが多い。

 この見解は「やりたいこと」という幻想のもたらす満足感に長い間浸っていた人々には、驚きかもしれない。しかし、仕事上の満足について長年研究してきた科学者たちに驚きはない。何十年もの間、同様の結論を発見してきていたからだ。

 ただ、今日まで、その結論に真剣に耳を貸すキャリア・アドバイス関係者がほとんどいなかったのだ。そこで次に、これまで見過ごされてきた研究の成果を示したい。