「ごめんなさい その6」「ごめんなさい その7」は、吉原精工では対応できない加工があることを宣言しています。

難易度の高い微細な加工や、大型の加工機を必要とする加工は、吉原精工では残念ながらお受けできません。これは、私が「名人仕事は目指さない」方針だからです。

世の中には、ワイヤーカットの世界で高度な技術を持ち、大手メーカーからも一目置かれるような「名人」もいます。そういった名人の方には尊敬の念を持っていますが、会社経営という観点では、個人の技量に頼る仕事はないほうがいいと思っています。名人の技を伝承するのは難しいものですし、名人になにかあれば責任を持って仕事を完遂できないリスクもあるからです。
また、微細な加工や大型の加工はシェアが小さいことも理由の一つです。
高度な技術を持つ職人や高額な加工機をそろえるには、それなりのコストがかかります。その範囲の仕事をあえて「捨てる」ことが、コスト低下につながると考えています。

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「ごめんなさい その8」では、バックマージンを含む接待をしないことを宣言しています。

過去には、何度もバックマージンを要求されてきました。
「息子が小学校に入るんだけど、学習机がないんだよね」
そんなふうに暗に要求する人もいれば、
「職場でゴルフ大会を開くんだけど、景品を買いたいので資金を出してもらえないか」
などとあからさまにたかってくる人もいました。あるいは、
「20万円の仕事だけど、30万円で請求を出して8万円をバックしてほしい」
といった要求を受けることもありました。

こういった要求は、吉原精工にとってコストアップの要因になるだけでなく、取引先に難しい社員がいるという点でも問題です。実際、過去にこうした社員がいた会社の中には倒産したところもあります。難しい社員のせいで、外注する加工料が高くなれば、会社の経営が傾くのも無理はないでしょう。

ちなみに、この「バックマージンを含め接待はやらない」という吉原精工の方針を評価してくださる会社は少なくありません。取引先の上司からすれば、
「あの会社と付き合っているんだから、担当者はクリーンな仕事をしているはずだ」
という安心感が得られるからです。

「ごめんなさい その9」では、年賀状・暑中見舞い・お中元・お歳暮の廃止を宣言しています。

昔は年賀状などもこまめに出していましたが、金型業界から撤退し取引先を拡大していく過程ですべて止めました。
「年賀状やお中元・お歳暮の有無で取引先を選ぶ会社はあるのか」
そう考えたとき、営業するならほかの方法に時間やコストをかけたほうがいいと思えたからです。

こうした数々の「わがまま」を明言したことによって、吉原精工の取引先は、私たちが望む条件を理解してくれるところばかりになりました。
ホームページを見てくれた新規のお客様には、「ウチの方針はこうです」といちいち説明したり交渉したりする必要もないのです。

■著者紹介
吉原 博(よしはら・ひろし)

株式会社吉原精工会長。1950年鹿児島県出身。高校卒業後、電機会社に勤務。その後、商社や金型製作会社を経て、1980年に同社を創業。2015年より現職。
当初はブラック企業だったが、経営改革により、社員7人ながらも「完全残業ゼロ」を達成。その取り組みが「2016年度厚生労働省働き方改革パンフレット」への事例として紹介される。これを機とした日刊工業新聞での記事で大きな注目を集め、『おはよう日本』『クローズアップ現代+』(以上、NHK)、『日経トップリーダー』(日経BP)、日本経済新聞など、多数のメディアで紹介される。また、残業ゼロ以外にも「年3回の10連休」「ボーナス手取り100万円」などが話題になる。著書に『町工場の全社員が残業ゼロで年収600万年以上もらえる理由』(ポプラ社)がある。