「マヤ文明展」が実現した
「本物を超えるフェイク」

 VRの実用化で忘れてならないのは、やはりデジタルミュージアムのプロジェクトではないでしょうか。最初にプロジェクトの実験場となったのは、国立科学博物館で2003年に開催された「神秘の王朝-マヤ文明展」でのVRシアターでした。

 従来、博物館で開かれる古代文明展は、出土品をギャラリーに並べるだけが普通でした。「神秘の王朝-マヤ文明展」では出土品だけではなく、数多くの石碑やピラミッドなども遺跡の見どころであったため、VRシアターのような疑似体験装置が有効だと考えました。

 当時としては最大規模のシリコングラフィックス社のグラフィックワークステーションを投入。ギャラリートークを担当する若手の俳優が手元のデバイスを操作して、自在に場所を移動しながら解説を行う演出。その臨場感たるや抜群で、多くの観客の興味を引きました。VR・AR技術を社会に応用展開する最適の場となったのです。

 このプロジェクトを通して見えてきたのは、VR技術を「実物」の代替物として導入するだけでは、その特性を十分に活かしきれないということです。本物そっくりにまねをすることも一つの利用価値かも知れませんが、「まねしているだけなら、やはり本物の方がいい」ということになります。「本物そっくりであるが、どこかで本物を超えた価値を持つフェイクを作る」というところに、VRの真の意義があるのです。

 デジタルミュージアムのポイントは「実際の博物館展示だけではできないことは何か」ということでした。展示物があってもその物が使われていた時代までは戻れない。その時間軸をVRではコントロールできますから、そのことにより本物を超えるフェイクを作り出せるのです。

 例えば近年の東京駅大改修によって、多くの人が長年慣れ親しんだ「高度経済成長期」の東京駅は、もう「実物」を見たり研究したりすることができません。しかしデジタル技術の特性を活用すれば時間軸を自在に遡ることができ、かつての三角屋根・二階建てのある意味貧相な東京駅の見学が可能になります。制御された"時間軸のコントロール"によって、「実物」の未来を研究することすらもできるでしょう。