「時間軸のコントロール」が
生み出す可能性

 時間軸をコントロールする取り組みのもう一つの例が、さいたま市の鉄道博物館にある御料車の「VR保存」です。御料車とは皇族専用の鉄道車両のことで、これまでに18車両が製造されました。製造当時の工芸技術の粋が尽くされ、まさに歴史を彩る芸術品です。

 鉄道博物館としては御料車の車内を来館者に公開したいのですが、製造後長い年月が経っているため内部のカーテンやソファーの繊維が崩壊寸前で、とても一般公開に耐えられる状態ではありません。そこでまずはデジタル技術で現状を保存しておくことで、後世の見学や研究に備えようというプロジェクトです。

 これは個人的アイデアですが、現在、保存データ収集中のある御料車とかつて同じ編成を組んで走っていた車両が、京都の鉄道博物館に別々に展示されています。両車両のデジタルデータを使って「バーチャル連結」させ、かつての編成を再現させるということも可能ではないでしょうか。

 デジタルミュージアムでの取り組みに代表される「教育・啓蒙」の分野に加えて、VRが活躍するであろうジャンルが「訓練」でしょう。航空会社の「フライトシミュレーター」などは有名な事例です。これもVRの進化によって今やかなり小型化され、コストパフォーマンスの高い訓練が可能になりました。操縦を失敗した箇所を何度も繰り返し訓練したり、さまざまな「突発的アクシデント」を同じ条件で再現したりすることは、リアルなトレーニングでは不可能です。バーチャルな世界では、乱数を適宜コントロールしながら何度も同じ状況を作り出すことが可能で、これこそリアルの世界を凌駕する特性と言えるでしょう。いかに本物を超えるフェイクを実現するか、それがVR技術の利用では欠かせない視点だと考えています。

 後編では、人の行動を変えるVRと心理学の融合など「VRの新領域」の最新動向を紹介する。

(取材・文/須田昭久 撮影/海老名進)