周辺技術との融合で
新領域が生まれる

 今後、VR技術はそれ自身も進化を続け、さまざまなジャンルとコラボレーションをしながら実用化が進み、関連ビジネスも拡大していくでしょう。例えばテレビというメディアではスポーツ番組等での活用で、視聴者が競技場にいるかのような臨場感を演出することなどが想像できます。360度中継などは技術的な課題がまだまだ多いのですが、志の高い人たちによって2020年の東京五輪開催時には何らかの形になっているでしょう。大切なのは実際にトライを続けることであり、机上の検討で妄想のみを広げていることが一番よくないのです。

 現在はまだテレビがメディアとしての影響力を誇っていますが、インタラクションという観点から見るとセンスがないように感じます。それはテレビの発展の経緯から見て仕方がないことですが、今後はテレビ業界に、VRを有効活用してハイカルチャーでありながらインタラクティブなメディアをどう使いこなすかを考える専門家が必要となるでしょう。テレビの得意分野であるドラマなどはVRの中心概念に近いと考えられるので、相性はよいと考えられます。

 ビジネスの世界では近年「コト消費」が主役となる傾向があり、「もの」の価値が縮小しているため、将来的には「コト」と無縁の商品は高く売れなくなっていくのではないでしょうか。商品の「コト」をアピールするには、歴史的な経緯など「もの」の因果関係を消費者に上手に見せてあげることが重要となり、VRの得意な「時間軸での展開」のノウハウが役に立つはずです。

 VRという技術はAIやIoTと似ていて、単体で切り出してもそれほど大きなパワーは生まれず、有益な実用化につながりにくいものだと思います。VRとAI、あるいはVRとIoTが相互に影響し合う新しい領域で面白い成果が生まれるのであり、そうした融合を促進することで実用化は進んでいくはずです。

(取材・文/須田昭久 撮影/海老名進)