橘玲の日々刻々 2018年1月24日

"臆病で保守的"な日本人が
金融リスクを回避する方法とは?
[橘玲の日々刻々]

橘玲のメルマガ 世の中の仕組みと人生のデザイン

『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル』は2013年3月に発売されたが、今回、文庫化と同時に電子版も改定し、タイトルも『国家破産はこわくない 日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル改訂版』となった。

[参考記事]
●国家破産は、これさえ守っておけば全然怖いことではなかった
 

 資産運用関係の本が文庫化・改定されることはあまりないが、今回、改定作業をやりながら感じたのは、「日本経済はほとんど変わっていない」ということだった。そのため、本文中で紹介している金融商品の情報などはアップデートしたものの、改訂版でも論旨はまったく変わっていない。

 親本の執筆当時もいまも、日本経済を覆う雰囲気は「デフレとはいっても不況とはいえない」ではないだろうか。

 内閣府の国民生活世論調査では、「現在の生活に満足」とこたえたひとが73.9%と過去最高になった(2017年7月)。失業率は2.7%と過去最低水準で、有効求人倍率は1.56倍と80年代のバブル最盛期を超えてこちらも過去最高を更新した(2017年11月)。また昨年12月時点の大卒内定率は86%と7年連続で上昇し、1996年以降で最高になった。若者(とりわけ20代男性)のあいだで安倍政権の支持率がきわめて高いのは、こうした経済環境が理由のひとつであることは間違いない。

 だが現在に満足している一方で、日本の若者たちは将来をきわめて悲観的に見ている。すこし古いデータ(2013年6月)だが、フィナンシャル・タイムズと大手通信会社がミレニアム世代を対象に北米、南米、ヨーロッパ、アジア、中東、アフリカの27カ国1万2171人を対象に行なった世界最大規模の意識調査では、「自分の国の将来は明るい」とこたえたのは中国93%、インド81%、ラテンアメリカ80%、韓国77%、世界平均は62%なのに対し、日本の若者は81%が「日本の将来は暗い」と回答している。

 こうした傾向はいまも変わっておらず、市場調査会社マイクロミルが2018年1月に成人を迎える500名を対象に行なった調査では、「日本の未来は明るいと思う」が34.4%に対し、「暗いと思う」は65.6%でほぼ倍になっている。第二次安倍政権が誕生した2012年は79.8%の新成人が「日本の未来は暗い」とこたえていたのだから多少は改善したものの、7割近くが悲観的という傾向はこの4年間変わっていない。

 日本の若者は、「いまはそこそこ幸福だけど、将来はきっとヒドいことになる」と思っている。なぜこのような矛盾した感情を抱くのか、その理由はいうまでもないだろう。急速に進む少子高齢化と、1000兆円を超える国の借金だ。

日銀の大規模な金融緩和政策でひとびとは「合理的不安」をおぼえた

 ここであらためて断っておくと、私は「日本国は破産する」とか、「円資産は紙クズになる」とかの不吉な予言を広める“ハルマゲドン”論者ではない。しかしその一方で、経済や財政の専門家の多くが、「このままの状態で日本の財政が持続可能なはずはない」と指摘していることを一笑に付すだけの度胸もない。

 楽観的な立場では強い日本が復活し、悲観的な立場ではハイパーインフレがやってくる。だが経済が複雑系である以上、専門家を含め、未来になにが起きるのかを予測することはできない。いまでもこの両極端の立場から互いに罵倒しあっているひとたちがいるが、もし彼らに未来を知る能力があるのなら、2008年のリーマンショックを正確に予測し(プットオプションを大量に買うなどして)大富豪になっていたはずだ。だが寡聞にして、そんな話は知らない。

 トランプ政権誕生にもかかわらず(あるいは「トランプノミクス」の恩恵を受けて)ニューヨーク株価は2万6000ドル台の史上最高値を更新した。その影響もあって日本株も2万4000円台と「バブル崩壊後の最高値」になった。国家破産論者のいうような「財政ハルマゲドン」は起こらず、アベノミクスの5年後の評価は、「金融緩和でインフレは起こせなかったものの、それなりの成果はあった」ということになるだろう。

 だがそうはいっても、このまま将来もずっと安泰だとはいえない。

 リフレ派が妄想していたような「日本経済大復活」は難しそうで、1000兆円を超える日本国の借金はいまも増えつづけている。超高齢社会で社会保障費が膨れ上がっていくにもかかわらず消費税増税は先延ばしされ、増税してもその財源は借金返済に使わないというのだから、今後も日本国債への高い信頼が維持できると考える(まともな)経済学者はほとんどいないだろう。

 それに加えて、「金融緩和に効果がないなら政府債務をさらに拡大して無理矢理インフレにしろ」という、マッドサイエンティストのような主張をする学者も出てきた。私たちはいまだに、いつ日本国の財政が行き詰まり、国債が暴落し急速な円安が進むかわからない崖っぷちの狭い道をおそるおそる歩んでいるのだ。

 そしてこれが、日本の若者たちが将来を悲観する理由になっている。もちろん若者だけでなく、すべての日本人が「いつかとんでもないことが起きる」という漠然とした不安を抱えているだろう。

 リフレ派が大好きな「合理的期待形成仮説」によると、中央銀行がどんどんお金を刷れば(貨幣供給量を増やせば)、ひとびとは「いずれインフレになる」という「合理的期待」を抱き、「物価が上がる前に必要なものを買っておこう」とか、「事業展開の投資は早めにしておこう」と考えるため、これらの“合理的行動”によってほんとうにインフレが起こるのだという。

 だが実際には、日銀の大規模な金融緩和政策でひとびとが抱いたのは、「こんなことをしていたら財政が破綻するのではないか」という「合理的不安」だったようだ。その結果、個人は貯金を増やそうとし、企業経営者は「会社を守る」ためにひたすら内部留保をためこむという“合理的行動”に走り、いつまでたっても市中の貨幣流通量は増えずインフレにもならなかったのだ。

経済的な混乱に金融市場でヘッジをかける方法とは?

 大地震や原発事故、戦争や内乱など、未来にはさまざまな不確実性が潜んでいる。だがそのなかでも、経済的な混乱にはふたつの大きな特徴がある。

 第一に、市場で起きる出来事は将来のシナリオをかなり限定できること。日本経済の未来には、次の3つの可能性しかない。

①楽観シナリオ アベノミクスが成功して高度経済成長がふたたびはじまる
②悲観シナリオ 金融緩和は効果がなく、デフレがこれからもつづく
③破滅シナリオ 国債価格の暴落(金利の急騰)と高インフレで財政は破綻し、大規模な金融危機が起きて日本経済は大混乱に陥る

 第二に、経済には強い継続性(粘性)があること。仮に③の「破滅シナリオ」が現実のものになったとしても、それは次のような順番で進行するだろう。

 第1ステージ 国債価格が下落して金利が上昇する
 第2ステージ 円安とインフレが進行し、国家債務の膨張が止まらなくなる
 最終ステージ 日本政府が国債のデフォルトを宣告する(国家破産)

“危機”は第1ステージから第2ステージ、最終ステージへと順に悪化していくのだから、ある朝目覚めたら日本円が紙くずになっていた、などということはない。たとえ日本国がデフォルトするとしても、それまでの間に自分と家族を守るための時間はじゅうぶんに残されている。これが、本書の基本的な立場だ。

 天変地異のような自然災害以外にも、戦争や内乱・テロなど私たちはさまざまな政治的・社会的リスクに晒されている。国家の債務が膨張して制御不能になる財政破綻も、私たちの人生に大きな影響を与えるリスクのひとつだ。

 しかし経済的なリスクは、政治的・社会的リスクとは異なって、金融市場でヘッジする(保険をかける)ことが可能だ。資産に対して最適なヘッジをかけさえすれば、「国家破産」はなにもこわくない。

 この本は金融取引の経験のあまりない保守的なひとたち、すなわちほとんどの日本人に向けて書かれている。こうした“臆病な投資家”への私の提案は、金融機関が「国家破産対策商品」として販売する「高利回りファンド」などに投資するのではなく、「破滅シナリオ」の第1ステージまでは普通預金でじゅうぶんだということだ。

 もちろん、「破滅シナリオ」の第2ステージである大規模な経済的混乱が起きれば、普通預金だけで資産を守ることはできない。しかしその場合でも、プライベートバンクやヘッジファンドなど「高度な資産運用(といわれているもの)」に頼らなくても、近所の銀行や証券会社(もしくはネット銀行・ネット証券)で売っている3つの金融商品だけでじゅうぶん対応できる。

 金融市場の正しい知識と資産運用の原則さえ知っていれば、「最悪の事態」が起きたとしてもなにひとつ慌てることはない。このことを、1人でも多くの「不安な日本人」に知ってもらいたいと思っている。
 

橘 玲(たちばな あきら)

橘玲のメルマガ 世の中の仕組みと人生のデザイン

 作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル』『橘玲の中国私論』(ダイヤモンド社)『「言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮新書)『幸福の「資本」論 -あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」』(ダイヤモンド社刊)など。最新刊は『80's エイティーズ ある80年代の物語』(太田出版)が好評発売中。

橘玲『世の中の仕組みと人生のデザインを毎週木曜日に配信中!(20日間無料体験中) 


作家・橘玲の切れ味鋭い見解が毎週届く!
有料メルマガの
無料お試し購読受付中!
お試しはこちら

幸福の「資本」論|橘玲著 幸福の「資本」論 重版出来!
橘玲著

あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」。あなたが目指すべき人生は?
定価:1,500円(+税) 発行:ダイヤモンド社
購入はコチラ!
世の中の仕組みと人生のデザイン|橘玲のメルマガ配信中! 20日間無料 ザイでしか読めない!橘玲のメルマガ「世の中の仕組みと人生のデザイン」も好評配信中!
月額864円(税込)
いますぐ試す(20日間無料)

バックナンバー

»関連記事一覧を見る

海外投資必勝マニュアル&本

海外投資のノウハウが凝縮! ここで紹介しているコンテンツ、書籍はすべて、ネットから購入が可能です。さらに「海外投資実践マニュアル」は「海外投資を楽しむ会」の会員になれば割引価格で購入可能です。

作家・橘玲がメルマガ配信を開始!
発売即重版決定! 橘玲の最新刊【幸福の「資本」論】発売!
橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
作家・橘玲がメルマガ配信を開始!
subcolumn下影

ページのトップに戻る

本WEBサイトに掲載している全ての記事およびデータについて、その情報源の正確性・確実性・適時性を保証したものではありません。本サイトの提供情報を利用することで被った被害について、当社および情報提供元は一切の責任を負いませ ん。万一、本サイトの提供情報の内容に誤りがあった場合でも、当社および情報提供元は一切責任を負いません。本サイトからアクセス可能な、第三者が運営するサイトのアドレスおよび掲載内容の正確性についても保証するものではなく、このような第三者サイトの利用による損害について、当社は一切責任を負いません。また、併せて下段の「プライバシーポリシー・著作権」もご確認ください。