カード社会のアメリカで生活していても、どうしようもなく絶対に必要になるお金があります。それはクォーター。25セントの価値を持つコインです。このコインはいろいろな場面で使われますが、もっとも生活に直結する場面はランドリー、つまり洗濯です。

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はた目には普通の洗濯機。でもApple Payに対応したのです

 こちらでは一軒家はもちろん、アパートによってもあらかじめ洗濯機が備え付けられていることがありますが、洗濯機を置くスペースが用意されていないこともあります。その場合、アパートの共同ランドリーを利用するか、街にあるコインランドリーを使わなければなりません。

 コインランドリーを回すと、洗濯でだいたい2ドル程度、乾燥を1時間回すと1.5ドル程度です。水不足のタイミングで、このコストは上昇しています。ただこれは0.25ドルずつコインを入れる必要があるわけで、洗濯で8枚、乾燥で6枚が必要となってしまいます。

 このコインを集めるのは、実はなかなか大変なのです。

 先ほども書きましたようにアメリカ社会では日々の買い物はカードで支払ってしまうため、通常「おつり」という概念がないのです。日本であれば、100円玉はとても身近ですし、コンビニで1000円札で買い物をする機会もあるため、コインを得にくいという経験はあまりなかったように記憶しています。

アパートの共同ランドリーが刷新されて……

 筆者は長らくクオーター獲得に苦心する生活を続けていましたが、その苦労にも終止符が打たれそうです。なんと、アパートの共同ランドリーが、Apple Pay/Android Payに対応したのです。

 しかしその対応の方法は、アプリを介したものでした。

 洗濯機や乾燥機には、QRコードがついたステッカーが貼られています。それを読み込むと「PayRange」というアプリのダウンロードを促されます。このアプリでアカウントを作ると、クレジットカードやモバイル決済から入金し、対応ランドリーでコインを使わずに利用する事ができる仕組み、だそうです。

 ちなみにPayRangeはランドリーのほかに、コイン洗車や掃除機、自動販売機といったコインで動作する仕組みを、非常に小さなデバイスで実現しており、アメリカで最も成功したIoTソリューションの1つとされています。

 使い方は前述のとおりにアプリをダウンロードしてアカウントを設定し、Apple Payやクレジットカードで残高を追加したら、ランドリーまで行ってマシン番号を選ぶだけです。

 うちのアパートでは、1~3が洗濯機、4~6が乾燥機に割り当てられており、Bluetoothで自動的に近くのマシンを選ぶことができるほか、アプリからQRコードを読み取ってもOKです。たとえばランドリーから遠い自宅の中からPayRangeを立ち上げても、「周囲にデバイスがない」としてマシンにチャージできません。とにかく、そのマシンの近くにいないと利用できない仕組みになっているようです。

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あらかじめアプリをインストールして、チャージしておく必要があります

コイン獲得に腐心せずに済むうえ、面倒事もない

 こちらでは機械に、コインをたくさん持って入れる作業は、単調ながら神経質になることがあります。

 まず、コインを落とさないようにしなければなりません。もしマシンの下に入ってしまったら、長い獲物で探って、埃だらけのコインを発見しなければならなくなりますし、救い出せなかったときの悔しさといったら……。あまり思い出したくないですね。

 コインを落とさなくても、入れたのにカウントされないみたいなこともあり、これまたフラストレーションが溜まります。コイン排出のボタンを何回か押すと出てきたりするのですが、出てこないことだってあります。

 そう考えると、コインを入れてマシンを回す動作そのものに対して、あまり筆者は信頼感を持っていなかった、ということになりますね。

 そのため、落とさぬように、吸い込まれないように、一定のペースでコインを入れなければなりません。8枚もそれを繰り返すとなると、やはり時間がかかります。

 筆者の場合はストレスを溜めるだけなのでまだ良いとしても、小さな子供やお年寄りの方、車椅子の人にとっては、大量のコインを高い位置にある挿入口に続けて投入し続けることが困難なこともあります。PayRangeでコインなしで使えるようになれば、いろいろな問題を解決できるようになるのではないかと思いました。

最初は恐る恐る、でもちゃんと動作した

 しかし、刷り込みとは怖いものです。コインでマシンを動かすインターフェースへの信頼感が薄い筆者は、PayRangeですら、チャージしたのに動かなかったらどうしよう、という元も子もない不安感で、最初はおっかなびっくりしていました。今ふりかえれば、どれだけコインのマシンにトラウマがあるのか、もはやその原因すら思い出せないのですが。

 結論から言えば、アプリからチャージしたマシンは無事に動作し、コインを入れなくても、ただスタートボタンを押すだけで動き始めてくれました。これで、コイン集めから解放された生活が始まると思うと、少し気が楽になったような感覚すら覚えます。

 さて日本はというと、2015年12月には、SuicaやPASMO、nanacoなど複数の電子マネーに対応したコインランドリーが東京で登場しています(参考:http://www.toppan-f.co.jp/news/2016/0129.html)。コインロッカーも早々に交通系ICカードで利用できるようになっていたので、似た性格もあるコインランドリーが使えるようになってもなんら不思議はありませんね。

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日本にはQRコードをスマホで読み込むことで、洗濯の状況がわかるコインランドリーもあるようです

 日本はまだまだ現金が流通している国だと言われていますが、生活の基盤となっている交通系ICカードの利活用が活発になるなど、まだまだアドバンテージがありそうです。ただ、スマートフォンとIoTが紐付いて、アメリカでも急速にソリューションが広がっている点も、注目していきたいところです。


matsu

筆者紹介――松村太郎

 1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。米国カリフォルニア州バークレーに拠点を移し、モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。

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