昨年末、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の金正日総書記が死去した。後を継ぐ金正恩氏への権力移譲は道半ばの状況であり、国を完全に掌握するためにはまだ時間を要すると見られる。北朝鮮国内で大きな混乱が起きるのではないかと不安を募らせる声も多い。2012年、東アジア地域にとっておそらく最大の懸念材料となるであろう北朝鮮情勢の行方を、どう見るべきか。かつて日朝間における拉致を含む北朝鮮問題の解決に尽力した田中均・日本総研国際戦略研究所理事長に詳しく聞いた。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 編集長・原英次郎、小尾拓也)

金正恩の権力掌握はまだ道半ば
体制を維持するためには困難も多い

――昨年末に金正日総書記が死去したことにより、北朝鮮の動向に対して不安が募っている。3男の正恩氏が後継者として本格的に始動したが、権力の掌握までにはまだ時間がかかると見られる。今後の北朝鮮情勢をどう見るか。(以下敬称略)

【テーマ10】<br />東アジア最大の懸念材料、北朝鮮の来し方行く末<br />金正恩体制の分水嶺は権力よりも“権威”の維持<br />――田中均・日本総研国際戦略研究所理事長たなか・ひとし/日本総合研究所国際戦略研究所理事長。1947年生まれ。京都府出身。京都大学法学部卒業。株式会社日本総合研究所国際戦略研究所理事長、財団法人日本国際交流セ ンターシニアフェロー、東京大学公共政策大学院客員教授。1969年外務省入省。北米局北米第一課首席事務官、北米局北米第二課長、アジア局北東アジア課長、北米局審議官、経済局長、アジア大洋州局長、外務審議官(政策担当)などを歴任。小泉政権では2002年に首相訪朝を実現させる。外交・安全保障、政治、経済に広く精通し、政策通の論客として知られる。

 金正日の死は突然だったので、誰も予期できなかった。2008年に心臓麻痺を起こして以降、ここ1年ほどは順調に回復しており、精力的に活動しているように見えた。

 しかし、病気で倒れたことを機に、正恩を後継者として本格的に育て始めた。色々なポストをつくって、視察にも同行させた。過去3年の間に北朝鮮がとってきた政策の大半は、正恩も交えて決められたものだと考えられる。

 通常の国であれば、引き継ぎには3年間もあれば十分だ。だが問題は、北朝鮮が「特殊な国」だということ。金日成から金正日に権力が移行するまでには、20年もの時間を要した。

 これは、それだけ慎重にステップを踏んだからこそ国の体制を維持できたのであり、裏を返せば、簡単には体制を維持できないことを意味する。金正日が死去するまでの間には、正恩の側近にふさわしい新たな人材を周囲に配置し、旧側近を遠ざけるなど、新しい体制づくりは巧みに進められていた。

 しかし、それはまだ途次にあり、完了するまでには時間がかかる。準備期間がわずかしなかった金正恩が現体制を維持していくことには、困難も多いと思う。