ユーザー側の視点に立ち
新しいIT人材育成プログラムを開発

 産学連携組織インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)は2015年、会員企業数約53社でスタートしたが、現在は250社を超える。国内の大企業や中小企業以外にも、ボッシュやシーメンスなどのドイツ企業、インテルやシスコシステムズなどの米国企業、そして中国企業など、海外からの参加も増えている。最近は東南アジアに訪問する機会も増えた。彼らにとって、日本のものづくりは"“レジェンド”になっている。

 トップダウンでERP(統合基幹業務システム)を導入しても、本社系の業務はいいが、日本の現場はなかなか動かない。そうしたなかで、日本のものづくりは、現場のマネジャーのレベルが高いから、中小の製造業にもフォーカスしたIVI的なアプローチや考え方は、中国や東南アジアの企業にもウケがいい。

 2017年4月には、ドイツの「ハノーヴァーメッセ」で、米国の「インダストリアル・インターネット・コンソーシアム(IIC)」との提携も発表した。すでに協力関係にあるドイツの推進団体「プラットフォームインダストリー4.0」と合わせて、製造現場がつながるための標準化をグローバルに提案していきたい。

 産業界にとって大きな課題となっている新しいIT人材の育成については、このほど厚生労働省から「製造業ITマイスター指導者育成プログラム」の策定を受託することになった。今年2月からスタートし、現場のIoTを生産性向上につなげるシステム構築を製造業自らが行うための教育・訓練のセミナーを順次開催していく。

 従来のITというと、要件定義をして、設計し、外部のSI企業に委託するのが主流だった。ウォーターフォール型もアジャイル型も、いずれも主役はSI企業、ITベンダーであり、つくり手の論理になっていた。なぜならITは専門技術であり、用語もツールもプログラム言語も、特殊な訓練を受けた人でなければできなかったからで、いままでの国の高度IT人材の教育は、ITシステムをつくるスペシャリストを育てる方向を向いていた。

 これに対しわれわれは、ITのユーザー側の視点に立ち、製造業による製造業のための人材育成プログラムを開発するつもりだ。ユーザー側がITの知識やスキルを身につけ、自ら設計しながら、システムを構築できるようにしていく。もっとも大掛かりなものは、外部の専門家と協働するとして、現場レベルのデータ活用や、業務同士をつなぐような作業は自分たちできるようにするのが狙いだ。

 対象となるのは、工場の現場経験がある人で、データはあるけれど、データの活用方法がわからない人、活用法がわかっても、実際のシステムとして組み上げられない人たちだ。プログラミングはしないが、さまざまなツールが用意されているなかで、いままでエクセルで行ってきたようなシステムを、もう一段引き上げ、部門レベルで活用できるような小回りの利くシステムを独自に構築できる人材の育成につながることを期待している。