新介護報酬で介護現場に「医療の介入」が高まることへの懸念

老化を逆行させる「医療」

 3年に1度の介護保険制度の改定内容が明らかになった。1月26日に開かれた第158回社会保障審議会介護給付費分科会で、厚労省が各介護サービスについて事業者に支払う報酬を示した。

 報酬は全体としては0.54%の引き上げだが、介護の基本的な考え方を揺るがしかねない新しい加算報酬が広がりつつある。

 社会保障費の伸びに危機感を抱く財務省から多くのサービスへ費用の削減要望が強い。そこで、厚労省は特定のサービスに加算して事業者を誘導することで、全体の費用を抑えていく方針を採った。

 事業者や利用者を納得させる手段として、取り込んだのが「医療」である。患部を元通りに戻す、すなわち治すことが医療の目的と言われる。もしも、要介護者がこの医療の手法で、介護保険を使わなくてもよくなるほどに「回復」すれば、総費用は下がる。こうした医療の発想を介護の場に持ち込むことへの疑問はないのだろうか。

 加齢とともに老衰の過程に入り、心身の機能が弱まっていくのが普通の人間であり、生物だろう。死に向かう日々が続くのは間違いない。ゆっくり進む老衰と寄り添いながら高齢者たちは日々の暮らしを営む。そこに「介護」が手助けすることで、生活の質が維持される。

 介護の基本は暮らしやすさを支援することである。一時的に「回復」が訪れても、死への歩みは避けられない。自然の摂理である。無理矢理、自然の摂理に逆らえば、摩擦が生じる。耐えられない苦痛、苦役を伴いかねない。

 普段の生活を重視する「介護」と、老化を逆行させて回復を目指す「医療」との間には、深い溝がありそうだ。「介護と医療の連携」は一筋縄では行かない。