脳の配線を変える「ミニマムペア」

 これについては、スタンフォード大学とカーネギーメロン大学で実施された調査で頼もしい結果が出ている。その実験は、被験者となった日本人に少額の現金とヘッドホンとコンピュータを渡し、部屋に座って「rock」と「lock」を録音した音声を聞いてもらうというものだった。そして、「rock」が聞こえたときは「Rock」と書かれたボタン、「lock」が聞こえたときは「Lock」と書かれたボタンを押すようにという指示を与えた。

 当然ながら、結果はひどいものだった。何度か繰り返し聞いたあとでさえ、結果はやはりひどかった。まったく希望は見当たらない。

 ところが、別の日本人グループの実験でおもしろいことが起きた。前述のグループとまったく同じ状況のもと、彼らにはボタンを押した直後にコンピュータ画面で正否を知らせた。正解の場合は緑のマルが画面に表示され、不正解の場合は赤のバツが表示されたのだ。

 すると、被験者は学習し始めた。20分の実験を3回終えると、被験者の脳の配線は見事に変わっていた。実験の後半では、「lock」と聞いたときに脳が顕著な反応を見せたという。つまり、聞こえなかった音が聞こえるようになったのだ。

 この研究成果は外国語学習に活用できる。「rock」と「lock」は典型的な「ミニマルペア」だ。ミニマルペアとは、音素が1つだけ異なる2つの単語を意味する

 このようなペアはどの言語にもたくさんある。私が英語を教えたオーストリア人の多くは、「thinking(考える)」と「sinking(沈む)」、「SUS-pect(容疑者)」と「sus-PECT(疑いをかける)」、「niece(姪)」と「knees(ひざ)」といったミニマルペアの違いに苦しめられた。

 ミニマルペアを活用すると、自分に聞こえない音がはっきりわかる。それを克服するには、先ほどの実験のように正解をすぐに確認しながら何度も聞いて耳を鍛え、脳の配線を変えるのがいちばんだ。

 学ぶべきミニマルペアは、CD付きの文法書の最初のほうに掲載されていることが多い(発音に特化した参考書には必ず載っている)。私はハンガリー語を学び始めたとき、正しい発音を聞いてそのスペルを答えるというテストを10日間毎日20分行った。ミニマルペアの学習は、やり始めるととても楽しい。繰り返すたびに自分の耳が変わっていくという実感が得られる