デパートやブティックに出かければ、必ず売り込みに出くわす。ファスト・フードや高級レストランでも、また家にいても、また会社に行っても、売り込みに遭う。そのスタイルは、辟易とするものから、スマートなものまでさまざまだが、あの手この手を弄して、顧客に売りつける営業を「ハイ・プレッシャー営業」、顧客が買いたくなるように促す営業を「ロー・プレッシャー営業」という。

本稿は1947年に書かれたものだが、21世紀のいまを見回しても、ハイ・プレッシャー営業は絶滅するどころか、捲土重来しているかに思える。ここでは、「売ってさよなら、買わせてさよなら」の営業の限界を指摘し、誠実さと率直さを武器にしたロー・プレッシャー営業の有効性を考える。

ハイ・プレッシャー営業とロー・プレッシャー営業

 強引、しつこい、狡猾といった「ハイ・プレッシャー営業」はもはや過去の遺物と非難する人たちは多い。一方、「ロー・プレッシャー営業」とでも呼ぶべきスタイルが多数派を占めつつある。ハイ・プレッシャーからロー・プレッシャーへ――。この傾向はいまに始まったものではない。

エドワード C.バースク
Edward C. Bursk
元ハーバード・ビジネス・スクール教授。本稿執筆時は同スクール准教授。また1947年から1971年まで、『ハーバード・ビジネス・レビュー』誌の編集長を務めた。1990年没。

 そもそも、ロー・プレッシャー営業とはいかなるものか。どのようなかたちにせよ、いわゆる押し売りではないということか、それとも単にうまくごまかしているだけなのか。なぜ効果的なのか。これまでの営業スタイルとは異なるため、買い手の意表を突くのか(ということは、いずれは驚かれなくなり、その効果も薄れていく)。あるいは、相手が自然に反応するからか。

「ロー・プレッシャー営業は手堅く、生産的である」と言うが、はたして需要を喚起するものなのか。実のところ、買い手市場にあっては、およそ成功しない、効果の乏しい手法なのか。

 本稿では、このような疑問への答えを見出し、営業マネジメントにおける意義について考えてみたい。その際、対面営業、具体的には店頭販売ではなく訪問営業に絞ることとする。

 ただし忘れてならないのは、明らかに他の営業活動と類似しているという点で、当然のことながら、ロー・プレッシャー営業も広告宣伝や販促計画と戦略的に関連づける必要がある。

 さらに私は、本稿で申し上げることが実践に移されることを望んでいるというよりも、ロー・プレッシャー営業と、主にB2B取引、すなわち再販業者や一般企業の購買担当者への営業との関係について確認したいと考えている。これらの人たちは、感情よりも経済合理性を優先して購買するかどうかを判断しており、それゆえロー・プレッシャー営業が適していると思われるからだ。

 とはいえ、一般消費者を除外する必要はない。彼ら彼女らもまた、いまや合理的な購買者である。かつてはハイ・プレッシャー営業の典型とされていた一般家庭への訪問販売でさえ、わずかに開いたドアにつま先を突っ込むといったやり方は時代遅れであると認識されている。むしろ、ドアが開いたら、一歩後ろに下がって、にこやかに微笑みかけ、商品サンプルを手渡して、「明日、またおうかがいいたします」と言うことだろう。

 実際、社会全体で、けっして衝動的ではなく、慎重に吟味し、本当に必要なものを購入するという合理的な購買に向かいつつある。この傾向とロー・プレッシャー営業には、何らかの関係があることは間違いない。