社長は、応接室に小森を促すと、単刀直入に聞いた。

「最近の発注量をチェックしていたんだが、どう考えても現場の規模と発注量が合わない。倉庫も確認したが、在庫がない。これはどういうことだ?」

「発注しても、資材が余ることもあります。現場で余った資材は、倉庫に入れています。倉庫にないというなら、誰かが盗ったのではありませんか?」と、小森は知らないと言い張る。

 具体的な証拠がないので、社長はそれ以上は何も言えなかった。疑いは残るが、小森を現場からすぐに外すわけにもいかない。倉庫の鍵を替えて、社長と経理の徳田で管理することにした。資材発注も徳田が1人で取りまとめて行うこととし、社長に必ず量を確認するように取り決めた。

過重労働で
「うつ病」になりました!

 その後も、小森はたびたび無断欠勤や遅刻を繰り返した。社長がついに「次に無断欠勤したら解雇だぞ!」と告げると、翌日、小森は作業服のポケットから封筒を取り出し、社長に渡した。

「体調が悪くて病院に行ったところ、『うつ病』と診断されました。原因は、過重労働です。労働基準監督署に相談したら、労災が認められる可能性が高いそうなので、申請しようと思います。その場合、会社は俺を辞めさせることはできないって言ってました」

 社長が封筒を開けると、診断書が出てきた。病名は「うつ病」と記されており、「2ヵ月間の休養加療の要を認める」とある。

「残業はここ数ヵ月間、夜勤も入れると月に80時間を超えているし、自分がいくつもの現場を任されて精神的にも余裕がありません。さらに家でも眠れないし、気分が落ち込んで気力がないんです。会社にも損害賠償請求ができるみたいなので、それは改めて弁護士か誰かと相談してから来ます」と告げると、さっさと帰ってしまった。

社長は社労士に
相談するが…

 社長は以前、就業規則を作ってもらったことがある社労士に連絡し、会社に来てもらうことにした。社労士は小森のタイムカードを見ると、繁忙期とはいえ、ここ半年間に残業が100時間(*)を超えた月も数回あった。社長に確認すると、この期間は人手不足のため毎月少なくとも80時間程度は残業をしていたという。

「会社は小森さんにこれだけの残業をさせていたとなると、『うつ病発症は仕事が原因だ』と言われても仕方ないですね」

 残業代や深夜割増分はきちんと支払っていたが、「健康被害が出ている」と言われると、会社の責任は免れない。うつ病の程度によっては、慰謝料請求等をされる可能性もある。社長は、不安な気持ちで過ごした。しかし、その後小森からは連絡はなかった。

*時間外労働と業務の過重性
健康障害の発症2~6ヵ月間で月平均80時間を超える時間外労働をしている場合、健康障害と長時間労働の因果関係を認めやすいとされている。また、発症1ヵ月前、100時間を超える時間外労働をしている場合も、同様に因果関係を認めやすいとされる。ただし、これはあくまでも目安。その他に様々な状況等も踏まえ、総合的に判断される。
厚労省の認定要件の運用にある「長期間の過重業務について」箇所を参照