どうすれば外国語を10年、20年と記憶に残すことができるのか?あの中野信子氏が絶賛した話題の新刊『脳が認める外国語勉強法』には、ヒトの記憶の特性を最大限活用し、一度覚えたら単語も文法も忘れなくなる方法を紹介している。特別に一部を無料で公開する。

記憶はどのように保存されるのか

 覚え方を身につけるために、まずは記憶の性質と記憶される場所について知っておこう。1940~1950年代の記憶に関する研究は、明らかに記憶が保存されていそうな場所から始まった。情報の伝達や処理を担う「ニューロン(神経細胞)」だ。

 ラットの脳から特定の部位を取り除いて迷路の道順を忘れさせる実験が行われたが、どの部位を取り除いてもラットが道順を忘れることはなかった。研究者たちは保存場所の解明を諦め、1950年代のうちに、「ありとあらゆる場所を徹底的に探したが、記憶が保存される場所はニューロンではない」と結論付けた。

 しかしその後、調査の対象は細胞そのものではなく、ニューロンとニューロンをつなぐ部位に向けられた。脳内には1000億個前後のニューロンが存在し、その1つひとつが7000個のニューロンとつながっている。密集したクモの巣状態となっているその神経線維の長さは15万キロ以上にもなるという(注1)。

 実は、この「クモの巣」が記憶に密接に関係している。ラットに覚えさせた迷路の記憶が見つからなかったのも当然だ。迷路の記憶は脳内全体に分散されていたのだ。

 どの部位を取り除いても、迷路に関係する記憶のごく一部が損傷を受けるだけにすぎない。取り除く部位が増えるにつれて、道順を思いだすのにかかる時間は長くなったものの、完全に思いだせなくなったラットは1匹もいない。迷路の道順を完全に消すには、ラットそのものを消すしかないのだ。

 ニューロンは電気信号を使って情報を伝達し合う。ニューロンのつながりが生まれる過程は、美しいまでにシンプルで機能的だ。複数のニューロンが同時に発火(細胞内の電位差が急上昇)すると、発火したもの同士がつながってネットワークが形成される。この原理はヘッブの法則と呼ばれ、記憶する過程を説明するときによく用いられる。

注1 これはとんでもない数字だ。神経線維は地球3周分よりも長い。ニューロンで「ケヴィン・ベーコンとの6次の隔たり」(すべての人や物は6ステップ以内につながっているという仮説)を行うとどうなるか。どのニューロンも6ステップ以内にほかのどんなニューロンともつながることができる。もちろん、そのニューロンがケヴィン・ベーコンとつながっている必要はない。