機敏な組織にするためには、意思決定の分権化が重要となる。一方で、業務によっては集権化するほうがよい場合もある。本記事は、「敏捷性」「信頼性」「効率性」「永続性」という4つの目的に応じて、権限の所在を調整するための原則を示す。


 敏捷性が重要であることに疑いを挟む経営幹部は、めったにいない。ビジネスの機会と脅威に敏感に気づくため、そして、機会の獲得と脅威の回避を素早く巧みに行うために、この特性が必要だ。

 そのため、経営幹部は組織構造を(再)構築する際に、意思決定を分権化する傾向がある。顧客や競合企業、現場・前線の社員、その他のステークホルダーなどと接する者たちに、決定権を極力近づけようとする。それによって、情報と承認がマネジメント階層を行ったり来たりするうちに生じる遅れを、防ごうとするわけだ。

 これは政治の世界では、「補完性(subsidiarity)」の原理として知られている。つまり「中央権力は、地方機関では実行できない業務だけを行うべき」とする原理である。しかし、「地方では実行できない業務」とは、具体的に何を指すのだろうか。

 これは古くから存在する問題だ。ヘンリー・ミンツバーグは1979年の著書The Structuring of Organizations(未訳)で、次のように述べている。「“集権化”と“分権化”という言葉は、人間が組織について論じようと考え始めた当初から、取り上げられてきた」。それはだいぶ昔のことで、最低でも紀元前400年、エテロが娘婿のモーセに対し、階層の各レベルに責任を分散するよう助言した時までさかのぼる。

 本稿では、「集権化か、分権化か」という問題に取り組む際に参考となる、シンプルな理論を提案したい。斬新かつ画期的なフレームワークを示すわけではないが、時に忘れられがちな基本原理に立ち返ることは有益だろう。

 まずは、大勢の経営幹部が自社に求めている4つの特性から始めるとわかりやすい。すなわち敏捷性、信頼性、効率性、永続性(長年にわたる継続性。または、永続を確実にしていくこと)だ。ある取り組みをどの階層レベルで実行すべきかを決める際には、その決定が4つの特性に及ぼす影響を評価するとよい。

 たとえば給与処理は、集権化すれば効率性が得られる。分権化しておけば、各地域の労働法の改正に素早く対応できる。この敏捷性は集権化によって失われるかもしれないが、それよりも効率性のほうがはるかに重要だろう。実際、給与処理を集権化すればシステムと手続きを一本化できるし、ゆえにスケール効果も得られる。外部のサービス提供会社1社にアウトソーシングするなどもできる。

 ここで、4つの特性を体系的に見てみよう。