橘玲の世界投資見聞録 2018年2月15日

「西部開拓」の名の下、インディアンへの民族浄化を行なった
アメリカ創世記の負の歴史
[橘玲の世界投資見聞録]

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 アメリカ創世の神話には二つの大きな傷がある。ひとつはもちろん奴隷制で、もうひとつが「西部開拓」の名の下にインディアンの土地(と生命)を奪ったことだ。ハリウッドの西部劇では、白人の善良な開拓民を悪辣なインディアンが襲い、それを騎兵隊が救出するという勧善懲悪のドラマが人気を博した。

 だが第二次世界大戦が終わるとともに、この「神話」は大きく揺らぐことになる。人種差別に反対する公民権運動の盛り上がりのなかで、西部開拓にも「白人の手は血で汚れているのではないか」との批判が突きつけられるようになったからだ。ジョン・フォード監督、ジョン・ウェイン主演の映画『捜索者』(1956)がつくられたのはこの時期で、映画制作の背景はアメリカのジャーナリスト、グレン・フランクルの労作『捜索者 西部劇の金字塔とアメリカ神話の創生』で詳細に述べられている。その概略は前回書いた(「インディアン」という言葉の使い方についても述べている)が、今回は「事実は小説(映画)より奇なり」という後日譚を紹介しよう。

[参考記事]
●映画『捜索者』を観たときの強い違和感と陰惨な印象の正体

 

『捜索者』(ワーナー・ブラザーズ)

 

1950年代半ばには西部劇制作が全盛期となった

 西部劇の歴史を振り返ると、画期をなすのはラルフ・ネルソン監督、キャンディス・バーゲン主演の『ソルジャー・ブルー』(1970)で、コロラド州サンドクリークで1864年に起きた陸軍騎兵部隊によるシャイアン族らへの虐殺を描いて衝撃を与えた(同じ1970年に公開されたアーサー・ペン監督、ダスティン・ホフマン主演の『小さな巨人』もこの事件を扱っている)。

 ジェイムズ・チヴィントン大佐率いる民兵組織が、シャイアン族やアラパホ族の男女、子ども合わせて100人以上を虐殺した場面を、フランクルは次のように叙述している。

 チヴィントンの部下はシャイアンのひとびとがアメリカ国旗を振っているのも無視して、無差別に銃撃を加えた。そして、その日のうちに戦場に舞い戻ると、インディアンの負傷者たちの息の根を止め、死体の頭皮を剥ぎ、手や指を切断して装飾品を奪い、無残な有様の死体をデンヴァーまで運んで公衆の目にさらしたのだ。その後行われた調査で、シャイアンの男女や子どもたちの死体が性的な損傷を受けていたとする目撃証言も明らかになった。“翌日、戦場にいってみると、シャインアの男女や子供の死体は一体残らず頭皮を剥がれており、ほとんどの死体がおぞましい仕打ちを受けていた――大人の男女や子供たちの性器はみな切除されていたのだ”とジェイムズ・コナー中尉は証言している(グレン・フランクル『捜索者』)。

 1972年には、映画『ゴッドファーザー』でマフィアのドン、ヴィト・コルレオーネを演じてアカデミー主演男優賞に選ばれたマーロン・ブランドが、「ハリウッドにおけるインディアンをはじめとした少数民族に対する人種差別への抗議」を理由に受賞を拒否している。

 これ以降、インディアンを「悪者」として描くことはPCではない(政治的に正しくない)とされ、ハリウッドは長いあいだ西部劇を制作できなくなる。舞台を宇宙に移すことでこの制約を取り払い、勧善懲悪の活劇をスクリーンに復活させたのがジョージ・ルーカスの『スター・ウォーズ』(1977)だ。――実際には1960年代から西部劇への逆風は強まっており、クリント・イーストウッドはイタリアのマカロニ・ウエスタン(『荒野の用心棒』1964)で俳優としてのキャリアをスタートするほかなかった。

 1950年代半ばは西部劇が大手映画会社の年間制作本数の3分の1、中小プロダクションの半分を占めた全盛期だが、フランクルによれば、映画『捜索者』を制作していたとき、ジョン・フォードは「わたしは映画の中でインディアンを殺しすぎる、と非難されてきた。いまでは彼らに同情して人道的なパンフレットをばらまいたり、ご立派な主張を表明したりする連中が映画界にもいる。ところが、連中は絶対に自分の財布をひらくことはしないんだ。わたしはすくなくとも彼らに仕事を与えているからね」と悪態をついている。当時からPCの圧力はすでに強まっていたのだ。なお、西部劇の撮影地として偏愛したアリゾナ州モニュメントバレーでナヴァホ族の貧しい暮らしを見たフォードが、彼らに積極的に仕事を与えたことは事実だ。

『ソルジャー・ブルー』(アブコ・エンバシー・ピクチャーズ)

 


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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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