顧客争奪戦において営業力は決定的な要素である。営業部門の規模、専門性の度合い、パートナーとの役割分担、さまざまな活動に対する営業スタッフの時間配分、これらの要因によって、営業部門のパフォーマンスは左右される。また、事業ライフサイクルによっても、最適な営業部門のあり方は異なる。ビジネスの導入期に適した営業部門が、成長期、成熟期、衰退期といった異なるステージでも適しているとは限らない。過去25年間にわたり、68カ国、約2500社の営業部門を調べた結果、製品や事業のライフサイクルに合わせて営業部門を改革した企業は、そうではない企業よりも成功確率が高いことが判明した。

営業部門の保守性が戦略の妨げとなっている

 自転車の長距離レースでは、出場チームは優勝を目指して、レースのステージに応じて作戦を変更する。たとえば平地が長く続くエリアでは、各選手が順番に先頭に立ってエース選手を風圧から守る。起伏のある山岳エリアでは、一部の選手がペース・メーカーとなり、また上り坂では最適な走行ラインを示してエース選手を引っ張る。タイム・トライアルでは、チーム全体の平均タイムを下げるために、数人がペースを乱さずに走るように努める。

アンドリス A.ゾルトナーズ
Andris A. Zoltners
イリノイ州エバンストンにあるノースウェスタン大学ケロッグ・スクール・オブ・マネジメント教授。専門はマーケティング。またビジネス・コンサルティング会社、ZSアソシエーツの共同会長を務める。

プラバカント・シンハ
Prabhakant Sinha
ZSアソシエーツの共同会長。

サリー E.ロリマー
Sally E. Lorimer
ミシガン州ノースビル在住の営業コンサルタント兼ビジネス・ライター。

これら3名による営業管理に関する共著がSales Force Design for Strategic Advantage, Pal- grave Macmillan, 2004.のほか、2冊ある。

 個々の能力ももちろん大事だが、状況や隊形を考慮したうえで、どの選手をどのように使うか、長い目で見たチーム戦略が勝敗を分ける。これは営業部門にも応用できる教訓である。

 営業部門の管理には、並々ならぬ時間と資金が投じられているものの、製品ライフサイクルや事業ライフサイクルを踏まえたうえで、営業部門の戦略を変更している企業は少ない。しかし、顧客争奪戦で勝ち残るには、営業部門の臨機応変な対応は欠かせない。

 具体的には、次の4つの要素を適宜変更する必要がある。すなわち「営業部門やパートナーの役割」「営業部門の規模」「専門性の度合い」「さまざまな顧客、製品、営業活動における営業スタッフの時間配分」である。

 これらの要因が重要なのは、営業部門のビジネスチャンスへの反応度を決定するだけでなく、営業部門の業績を左右し、ひいては企業の売上げやコスト、収益性に影響を及ぼすからにほかならない。

 もちろん、営業活動の内容を変更するのは一筋縄にいかない。何しろ営業スタッフも顧客も変化を望んでいないばかりか、激しい抵抗が起こる場合も少なくない。

 たとえば、営業スタイルをゼネラリスト型からスペシャリスト型に方針転換すると、営業スタッフは新しい販売方法を1から学ばなければならない。報酬が歩合やボーナスといった業績連動型であると、組織改革によってその手取り額が短期的に減ってしまうかもしれない。

 ある顧客の対応を外勤営業から電話などによる内勤営業に切り替えたりすると、顧客との関係が切れてしまうかもしれない。新しいプロセスに対応し、新しい営業スタッフとの関係をゼロから築き上げなければならなくなる。