タイの洪水でサプライチェーンが大打撃を受け、供給困難に陥っていたハードディスクドライブ(HDD)。ここにきて、その反動で急速に市場が拡大しつつある。

 HDDとはデータの記憶装置のことで、パソコン(PC)やテレビ、録画再生機などに広く搭載されている。

 その主要メーカーである米ウエスタンデジタルは、2011年10~12月期で市場予測を上回る売上高を上げ、「生産の復旧において、タイの洪水から大きな進展があった」と発表。

 東芝も供給体制の復旧が進み、HDDを中心に価格上昇の効果が出てきている。それを含めると「洪水で被った営業利益400億円分の押し下げ幅を、かなりの部分挽回できる」(久保誠専務)のだという。

 また、こうした影響はHDDの部品メーカーにも出ている。たとえば、スピンドルモータという部品を生産している日本電産では、12年1~3月期で自社モータの出荷数について、前期比25%アップと予測する。一気に洪水前と同じ水準まで持っていく算段だ。ハードディスクを読み込むヘッドを生産しているTDKでも同じく、自社ヘッド出荷数量が前期比30%アップすると見ている。

 来年度以降に関しても、「洪水での供給不足分の積み上げや、記録する情報量の拡大で需要は見込める」と、複数の部材メーカー関係者は力強く話す。確かに日常で扱う情報量は日に日に増えているし、昨今では、その大量の情報「ビッグデータ」をいかに効率的に活用するかが、情報通信の世界で新たなテーマとなっている。

 とはいえ、こうした“追い風”がいつまで続くかは不透明だ。タイの洪水が深刻化していくさなか、手に入りにくく価格もいまだに高止まりしているHDDから、ソリッドステイトドライブ(SSD)に置き換わっていくのではないかという観測が広がった。

 SSDはHDDと比べて高価格だが、データの高速処理が可能で、外部からの衝撃にも強い構造をしており、特にモバイル機器に向いているとされる。そして、このSSDの普及を一気に加速させると見られるのが、世界最大手の半導体メーカー、米インテルが提唱する「ウルトラブック」だ。

 これはインテル製のプロセッサーを搭載し、価格が1000ドル前後と比較的安価で、主にSSDを搭載している超薄型ノートPCのこと。インテルがこの新コンセプトにかける意気込みはそうとうなもので、今年1月に開かれた国際家電見本市でも、その力の入れようは話題をさらった。

 また、部材メーカーの中にはHDD市場の中長期的な観測として、当初は年率10%以上の成長を見込んでいたが、ほぼ横ばいに下方修正した企業もある。こうした事情を考えれば、“追い風”に手放しで喜んでいられる状態ではない。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木崇久)

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