日本の農業ITで重視すべき
高付加価値化

 一方日本でのアグリテックの方向性は、欧州型の集約化・効率化とは異なります。日本の農産品は高品質で付加価値の高い産品が多いことで知られています。これら付加価値の高い農産品を提供できる農家は、長年の経験を経て、データを活用しなくても、規模に関わらず安定的に稼げる農業を実現してきました。

 将来の日本の農業の方向性に関して、オランダ型を理想と考える方もいらっしゃいますが、私はそれにはあまり賛同していません。オランダ型の施設園芸は、基本的には、「一定水準の作物を安定的に大量に栽培する」ことに重点がおかれています。同国のように周辺諸国を含む地域の物流拠点であり運搬コストに関しても競争力があることが、優位性を保つ前提条件です。それに対し、エネルギーコストも不利で、物流コストに関しても島国であることからコスト高となりがちな日本では「付加価値をつけることで利益率を高める」ことが求められます。オランダ型をそのまま導入しても、日本のメリットにはなりません。

 日本の独自性を活かした農業IT化の道筋としては、「高付加価値化のさらなる追求」が有望ではないでしょうか。どのように追求していくのか。それは、個人単位で努力を積み重ねていた高付加価値化の取り組みを連携させ、そのことで共通部分の無駄を省き、さらなる高付加価値化の取り組みへと時間を割ける状況へ持ってゆくことです。「水やり10年」と言われますが、一人前の農家になる時間をいかに短縮するのか。“名人芸”とも言われる篤農家の知見を紐解くと、誰もが学べる知見が基礎レベルとして含まれている。その基礎レベルを短時間で学べる仕組みが構築できれば、地域の底力となり、個々人がさらなる高みを目指すことを見込めます。

 このように、日本の農業を世界に通用する産業として確立するには、従来の農家レベルの「点」の試みを「面」へと拡充しなければなりません。そのためには"名人芸"を再構築して、継承のための基盤を作るべきなのです。