もちろん、登板日の行動も決まっていた。球場に入ってからは、まずシャワー。そこから、どのタイミングでユニフォームを着るかまで、分単位であらかじめルーティンの行動を決めてあった。それからこれは、ジンクスの部類に属するのかもしれないが、自分の勝ち星が続いている限り、球場への道順を変えることもなかった。いずれも、試合での集中力を増したり、勝利の結果を出したりするためだった。

ソフトバンク和田投手が米国移籍で思い知った「自然体」の強さ

 ところがある時期から僕は、この考え方を改めるようになる。きっかけはアメリカでの体験だった。野球ファンの方ならご存知だと思うが、僕は2012年、31歳の時にメジャーリーグ移籍を果たした。しかし、すぐにひじを故障してしまい、そのリハビリ期間を含めて、長い時間をマイナーリーグで過ごすことになる。そこでの光景は、当時の僕にはとても新鮮に映った。

 そこには、かつての僕のように細かいことに神経をとがらせるような選手は一人もいない。彼らはとにかく自由だった。どんなタイミングでメジャーチームからコールアップがかかるかわからない。すぐに対応するためには、「勝つために必要なルーティン」なんかにとらわれている時間などないのだ。

 日本なら毎試合前に、きれいに洗ってアイロンをかけたユニフォームがロッカールームに準備されている。またアンダーシャツ、アンダーソックスもきれいに畳まれている。しかし、マイナーリーグでは、「あ、これは洗濯に失敗したな……」とひと目でわかるほど、しわしわになったユニフォームが用意されていることもあった。

 アンダーソックスが片方ないなんてことも珍しくない。そんなときはランドリールームから適当に自分で見つけてきて、もし長さが違えば、ハサミで切って調節したりする。日本時代の僕は、登板日には、練習用と試合用のアンダーシャツとアンダーソックスを別々に用意するほどこだわっていたので、本当に衝撃的な世界だった。