Rule4
ゴールドマン・サックスの上司に説得力があった理由

「シンプルに伝える英語」の使い手として3人の海外のビジネスリーダーの例を見てきました。次にご紹介するのは日本人ビジネスパーソンの例です。
 ゴールドマン・サックス時代の元上司は、私にとって雲の上の存在でした。
 上司は毎週、ある曜日の夜11時に海外オフィスと電話会議を行なっていました。ニューヨーク、ロンドン、香港、シンガポールなど世界各地のオフィスをつないで会議をするのです。東京時間の午後11時は、ニューヨーク時間の午前9時、ロンドン時間の午後2時。東京だけが夜中でした。
 私は会議に参加していなかったのですが、部屋から漏れ聞こえてくる上司の英語は説得力があってカッコよかったのを覚えています。日本人がズバッと英語で意見を通す姿は、なんとも気持ちの良いものです。
 会議に参加している人の多くは、早口でまくし立てるネイティブスピーカーたち。アクセントが強くて聞き取りにくい、ヨーロッパや他のアジアオフィスの人の英語も聞こえてきます。とにかく、ベラベラと長く話す人もいて、彼らの発言を理解するだけで大変な苦労だろうなと思いました。
 しかし、上司を見てみると、リラックスして悠然と相手の発言を聴いています。「この人は話が長いなぁ」「結論を早く言わないものかなぁ」などと言いたげな表情です。あのようなスピードとアクセントの入り混じる英語での電話会議に、余裕の表情で参加できる上司の様子に私は驚きました。

説得力のある発言をするための表現とは

 上司が日本やアジアオフィスについての意見を聞かれたときのこと。おもむろに口を開く上司からは、結論の明確な英語が飛び出します。私の耳に残る上司の英語には、かならず以下のような表現が混じっていました。

We should do ~ (わが社は~するべきだ)
You need to think about ~ (あなたたちは~のように考える必要がある)
I believe ~ (私は~と考えている)

 この表現は、まさに上司が「結論から」話していることを示しています。そして、この後に続く言葉は以下の表現です。

It is because ~ (なぜならば~)
The reason for that is ~ (その理由は~)

 結論を支える根拠が明確で、論理的な主張であることがわかります。また、使う英語の単語や表現は、聞きなれたものばかりでした。簡単な表現を使っていたのです。
 上司の英語は、前述したシンプルな英語のポイントである
(1)結論が明確で、短く、わかりやすい
(2)論理が明確で、ストレート
(3)簡単でわかりやすい語彙

 に加えて、
(4)堂々と存在感がある
(5)高いリスニング力を備えている

 という特長もありました。堂々と伝える迫力と存在感があり、さらにその裏側に、どんなに早口でもアクセントが強くても、相手の言っていることを聴き取り理解できるだけのリスニング力があったのです。
 世界を相手に、日本人のノンネイティブスピーカーとして成果を出すためには、上記の要素で構成される英語コミュニケーション力を備えていることが大切であることがわかります。

point 堂々としていよう。リスニング力を高めよう