東京オリンピック・パラリンピックに向けて、日本の「おもてなし」文化の向上が期待されている。だが、そもそも「おもてなし」とは何か。世界標準の「おもてなし」について、日本旅行作家協会理事の野田隆氏に語ってもらった。

「おもてなし」とは、
人との触れ合いを感じさせることが大切

旅行作家、日本旅行作家協会理事
野田 隆 氏

1952年愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒業、同大学院前期課程修了。都立高校の教諭を務め、2010年に退職後、フリーランスに。特に鉄道旅行の紀行を手掛けており、ドイツを中心とした欧州と日本を得意としている。

「おもてなし文化の先進国はやはり北欧だと思います」と野田隆氏は言う。例えばスウェーデンは福祉国家として有名だ。高齢者や障害者が不自由なく暮らせるように、バリアフリーが充実している。駅やバス乗り場では駅員や運転手による介助は当たり前で、バスなどもノンステップや車高降下のシステムが充実している。車椅子用のトイレも多い。

 「北欧では地方の町でエレベーターを設置しなくとも、段差をなくし、スロープを作るなどの工夫をしています。車椅子ばかりでなく、スーツケースを持った外国人旅行者にもうれしい。

 もう一つは言語に関するおもてなし。自分たちの言語が世界的にはマイナーであると認識して、英語教育が進んでおり、地方の名もない町のレストランに入っても、高校生くらいの子がきれいな英語でメニューの説明をしてくれる。外国人が訪ねても、言葉の面で不自由しない。これは言語に関する認識を含め、日本も見習うべきでしょう」

 案内が“しゃべり過ぎない”のも、おもてなしの重要な要素だという。日本では忘れ物をしないようになど車内放送がしゃべり過ぎるため、言葉の分からない外国人旅行者は逆に不安になる。

 「ドイツ圏の鉄道では、次駅のアナウンスくらいで、その代わり列車ごとに到着時刻や乗り換え案内が記されたパンフレットが席にあります。放送やディスプレーではない紙の情報は確実で、旅行者にとっては丁寧な“おもてなし”と感じますね」

 ピクトグラム(絵文字による視覚記号)も有効になる。日本では1964年の東京オリンピックを契機に導入され、競技施設での誘導や案内に効果を発揮した。一部は国際的にデザインと意味が統一されており、2020年に向けてさらなる洗練と工夫が期待される。もちろん、案内の多言語化も大切だ。

「最近驚いたのは、『ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン』で紹介されたせいか、高野山を訪れるフランス人が多く、ケーブルカーの車内放送にフランス語が流れたこと。そうした臨機応変な対応は素晴らしい。優れたインフラの技術でおもてなしを支えるのは、日本の特徴です。ただしその根底にあるのは、人と人とのコミュニケーション。おもてなしは、触れ合いを感じさせることが大切だと思います」